BFP編集部 2002年6月
今月から、聖地に関するさまざまな興味深いトピックを3回に分けて学んでいきます。イスラエルについて熟知されている方も、「これから学んでいくところです。」とおっしゃる方も、ぜひこのティーチング・レターをご一読ください。
第1章ロケーション
1.聖地を表す名前
聖書の地は、いろいろな名前で呼ばれてきました。「カナン」「乳と蜜の流れる地」「約束の地」「イスラエル」「ユダ」「イドメア」そして「パレスチナ」。さらに、さまざまな地方の名前や、イスラエル12部族の相続地の境界や(ヨシュア13-21章)、地形を表す名(例-ユダヤ、サマリヤ、ガリラヤ、シェフェラー(海岸平野)、アラバ、ネゲブ等々)など、多くの地名も出てきます。
今日のイスラエル国家はこれらの名前を多く残していますが、それは昔、神が約束された、より大きな地域の一部分にすぎません。
このほかにも、解説的、あるいは詩的な名前が書かれています。「ベウラー」(「夫をもつ者」イザヤ62:4)、「聖なる地」(ゼカリヤ2:12)、「インマヌエルの地」(イザヤ8:8)、「エシュルン」(申命33:26、イザヤ44:2)、「ヘブル人の国」(創世40:15)、「ユダヤ人の地」(使徒10:39)、「麗しい国」(ダニエル8:9)、「良い山地」(申命3:25)、「慕わしい国」(ゼカリヤ7:14)、そして「主の地」(ホセア9:3)などです。
2.神の所有される地
神は、ある一つの目的のために、この地を特別に選ばれました。神ご自身がこの地の所有者であり、譲渡の権利を有され、ご自分のものだと宣言されている土地です。詩篇の著者が「地とそれに満ちているもの、世界とその中に住むものは主のものである。」(詩篇24:1)と言っているように、全世界は神のものです。しかし、神とこれほど特別な関係をもっているのは、この一角の土地だけなのです。神はイスラエルについて、こう言われます。「地は買い戻しの権利を放棄して、売ってはならない。地はわたしのものであるから。あなたがたはわたしのもとに居留している異国人である。」(レビ25:23)。事実、聖書ではイスラエルを「神の地」と表現する箇所が数多く登場します。エレミヤでは「わたしの国」(エレミヤ2:7)と呼んでいます。
神は預言者イザヤをとおして、ご自分の土地を防衛すると言っておられます。「わたしはアッシリヤをわたしの国で打ち破り、わたしの山で踏みつける。アッシリヤのくびきは彼らの上から除かれ、その重荷は彼らの肩から除かれる。」(イザヤ14:25)。未来に関する預言の中でも、神はイスラエルを「わたしの地」と呼び続けています。また、預言者エゼキエルをとおしてこう仰せられています。「あなたは、わたしの民イスラエルを攻めに上り、終わりの日に、あなたは地をおおう雲のようになる。ゴグよ。わたしはあなたに、わたしの地を攻めさせる。それは、わたしがあなたを使って諸国の民の目の前にわたしの聖なることを示し、彼らがわたしを知るためだ。」(エゼキエル38:16)
3.土地に注がれる神の愛
神はご自分の地を切に愛し、心を配っておられます。約束の地に対する神の愛を、モーセの言葉から見てみましょう。「そこはあなたの神、主が求められる地で、年の初めから年の終わりまで、あなたの神、主が、絶えずその上に目を留めておられる地である。」(申命11:12)
4.アブラハムの召し
神はアブラハムを、行く先を告げずに召し出し、ある特別な目的のために、一つの場所へ導かれました。「あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。」(創世12:3)。簡単に言えば、神は「世界の救済」という一つの計画をもっておられました。ゆえに神は、アブラハムという1人の男性を選び出し、そして彼をカナンの地(イスラエル)という特別な場所へ導かれたのです。
5.土地の譲渡契約
では、どこがカナンの地なのでしょう。神がアブラハムとその子孫に、永遠の契約として与えられた土地は、今日イスラエルがある場所です。そこはその昔、カナンの地でした。「アブラムはその地を通って行き、シェケムの場、モレの樫の木のところまで来た。当時、その地にはカナン人がいた。そのころ、主がアブラムに現われ、そして『あなたの子孫に、わたしはこの地を与える。』と仰せられた。アブラムは自分に現われてくださった主のために、そこに祭壇を築いた。」(創世12:6-7)。
神がアブラハムに約束されたカナンの地にあたる。
また、創世記17章7節から8節には、次のように書かれています。「わたしは、わたしの契約を、わたしとあなたとの間に、そしてあなたの後のあなたの子孫との間に、代々にわたる永遠の契約として立てる。わたしがあなたの神、あなたの後の子孫の神となるためである。わたしは、あなたが滞在している地、すなわちカナンの全土を、あなたとあなたの後のあなたの子孫に永遠の所有として与える。わたしは、彼らの神となる。」
6.カナンの地の本当の大きさ
神が永遠の契約としてアブラハムとその子孫に約束された地は、過去のいかなる時代の領土よりも、ソロモンの大帝国時代や現代イスラエルよりも、もっとずっと大きなものでした。「また彼に仰せられた。『わたしは、この地をあなたの所有としてあなたに与えるために、カルデヤ人のウルからあなたを連れ出した主である。』……その日、主はアブラムと契約を結んで仰せられた。『わたしはあなたの子孫に、この地を与える。エジプトの川から、あの大川、ユーフラテス川まで。ケニ人、ケナズ人、カデモ二人、ヘテ人、ペリジ人、レファイム人、エモリ人、カナン人、ギルガシ人、エブス人を。』」(創世15:7、18-21、またはヨシュア1:4)。民数記34章1節から12節にかけて、この領土に関するさらに詳しい記述があります。そこには今日のイスラエルはもちろん、ヨルダンとレバノン全土、そしてシリアのかなりの部分が含まれていました。
7.土地はだれのもの?
確かにカナンの地には、他の部族が住んでいました。しかし、神ご自身が土地の所有者ですから、全地球の贖いの計画を成就するために、この地をだれに与えるかは、神の決断の中にありました。そして、ご自分の地に新しい国民を創るために、アブラハムを召し出したときから、中東の「椅子取りゲーム」が始まりました。言い換えるなら、他の民族が住む地にイスラエル人を置いたことにより、そこから出された人々が住みかを求めて新しい土地を探す、絶え間ないサイクルが始まったのです。
そういうわけで、中東には今日でも、いつも1、2民族分の土地が足りない状態が続いています。しばしば2つ以上のグループが、一つの土地をめぐる権利を争い合っています。例えば、イスラエルとパレスチナ人、イスラエルとシリア人、クルド人、トルコとイラク等々です。イスラエル人の場合、所有権はあっても、そこに住む民として、この土地と人々に対する神のご計画に従わないかぎり、そこに長く存続することはできません。
8.12分割された土地
アブラハムの子孫には、現在よりさらに広い領域が約束されました。イスラエルの族長・ヤコブの息子たちには、おのおのが受け継ぐ部族の土地の地境が、神によって示されました。ヨシュア記13章には、その境界が非常な詳細さで記録されており、今日のイスラエル地図上でさえ、聖書に書かれているとおり、川や谷、丘々、町々を正確にたどれるほどです。聖書の時代よりかなり縮小してしまった現代イスラエルとは違って、これら12部族の土地は、ヨルダン川の東西両岸にまたがり、今日のレバノン南部、シリア南西部にまで大きく広がっていました。
9.ずっと変わらない地域
歴史上、いくたびもその領土範囲は変化したものの、一貫してイスラエル人が居住してきたのは「ダンからベエル・シェバまで」の地域でした。ダンとは、ヨルダン川の水源であるヘルモン山のふもと、ガリラヤ湖の北、フラー渓谷の北端に位置する、ダン部族の地です。ベエル・シェバは、アブラハムがアビメレクと協定を結んでしばらくの間住んだ(創世21:22-32)、南部のネゲブ砂漠にある町です。そのさらに南には地球上で最も乾燥の激しい砂漠があり、聖書時代、ベエル・シェバは、人々の居住に適する地の最果てとされていました。
これら2地点の間の距離は、ほんの84キロメートルです。エジプトの肥沃なナイル・デルタや、ティグリス・ユーフラテスという2つの川に挟まれたメソポタミアの肥沃な三日月地帯と比べると、イスラエルの地は小さく貧弱です。イスラエルの大きさは、聖書時代のほとんどにおいて、また現代でも、アメリカ・ニュージャージー州、日本で言えば四国を少し広くした程度です。しかしこの小さな地は、世界情勢の中で注目を浴びる場所であり、またその波乱に富む歴史自体が、この国が存在する意義と重要性を裏付けています。
第2章国土の持つ性格と地誌
10.乳と蜜の流れる地
聖書の地は「乳と蜜の流れる地」としても知られています。神はモーセに言われました。「わたしが下って来たのは、彼らをエジプトの手から救い出し、その地から、広い良い地、乳と蜜の流れる地、カナン人、ヘテ人、エモリ人、ペリジ人、ヒビ人、エブス人のいる所に、彼らを上らせるためだ。」(出エジプト3:8)。エゼキエルをとおして、神は再びこのテーマを取り上げて語っておられます。「その日、彼らをエジプトの地から連れ出し、わたしが彼らのために探り出した乳と蜜の流れる地、どの地よりも麗しい地に入れることを、彼らに誓った。」(エゼキエル20:6)
11.「乳と蜜」と説く―その心は?
乳と蜜の流れる地とは、この地が乳を産する羊や山羊、ラクダ等、家畜類を育むことができ、またミツバチが蜜を求める花々が咲き、豊かな甘い果汁をしたたらせる果樹が育つ場所であるという事実を表しています。動物や木々の存在は、水がある証明でもあります。「乳と蜜の流れる地」という約束は、全体的には多くが乾燥した砂漠であることを暗示しつつも、イスラエルの民への神の祝福を保証しているのです。
12.「土地があなたを養ってくれる」
「あなたの神、主の命令を守って、その道に歩み、主を恐れなさい。あなたの神、主が、あなたを良い地に導き入れようとしておられるからである。そこは、水の流れと泉があり、谷間と山を流れ出た深い淵のある地、小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろの地、オリーブ油と蜜の地。そこは、あなたが十分に食物を食べ、何一つ足りないもののない地、その地の石は鉄であり、その山々からは青銅を掘り出すことのできる地である。」(申命8:6-9)。ここでモーセはイスラエルの子らに対し、いかにその地が祝福されているかを説明しています。
13.巨大ブドウ現る
モーセが約束の地に送った12名の斥候は、エシュコルの谷から巨大なブドウの房とザクロとイチジク(民数13:23)を持ち帰り、こう報告しました。「私たちは、あなたがお遣わしになった地に行きました。そこにはまことに乳と蜜が流れています。そしてこれがそこのくだものです。」(民数13:27)
14.イスラエル―世界のちょうつがい
神がイスラエルに対して使われる「全地の栄光」という表現は、神がこの国を「主の地」(レビ25:23)、つまりご自分の土地として見ておられる事実と関連付けることができます。ゆえにここは、霊的にも肉的にも世界第1の国、という響きがあります。しかし「乳と蜜の流れる地」では、土地の豊穣さという、より物質的な意味合いも含んでいるように感じられるでしょう。
私がイスラエルに住んでからおよそ四半世紀近くが経ちましたが、この国の地形や動植物をとおして、これを取り囲むすべての大陸との関連を、たやすく理解できるようになりました。北はユーラシア、東はアジア、南はアフリカ、西は地中海に囲まれ、それらが皆、イスラエルの地でつながっているのです。イスラエルは、これらすべての大陸が影響を及ぼし合う地域の中心にある、ちょうつがいのような存在なのです。
15.大地の割れ目がイスラエルを走る
イスラエルは普通、「山がちの地」と表現されます。この地を、地球の深い割れ目が南北に走っています。イスラエルではこれをヨルダン渓谷(死海以北)とアラバ渓谷(死海以南)と呼んでいます。これらはトルコの山脈からシリアを通り、次にレバノンのベッカ渓谷、イスラエルのヨルダン=アラバ渓谷を通ってさらに紅海を抜け、アフリカ大陸のタンザニアまでにも及ぶ、およそ2400キロメートルもの長さの、「シリア・アフリカ大地溝帯」の一部です。
16.世界で一番低い場所
ヨルダン渓谷はガリラヤ湖の地点で、海抜マイナス212メートル、死海では地球上で最も低い、海抜マイナス404メートルになります。
17.ガリラヤ湖の秘密
ガリラヤ湖は、冬の雨季には、岸を挟んだ西側のガリラヤの山々と、東側のゴラン高原に降る雨で満たされる、美しい淡水湖です。湖面の高さは海抜マイナス212メートル、大きさは幅8キロメートル、長さ21キロメートルです。
ここがイスラエルの主要な水がめであり、ヨルダンとパレスチナ自治区にも水を供給しています。ガリラヤ湖のヘブル語名は「キネレト」といい、ハープを意味します。この湖の形が、昔ダビデ王が弾いたような、古代のハープの形だからです。
さて皆さま、いかがでしたでしょうか?今回は聖書の土地についての基礎的な学びが多かったですが、来月からは、「えっ?ホント!?」と思われるようなトピックが次々と出てきます。イスラエルは神さまの驚異に満ちた御業が凝縮した、すばらしい土地です。
ではまた来月!
エルサレムよりシャローム