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ティーチングレター

物語の力

文:テリー・メイソン(BFP国際開発部長)

ユダヤ人は2千年近くにわたり世界に離散していました。
それでも民族としてのアイデンティティーを失わなかった背景にあるのが、
物語の持つ力です。
その力を探ってまいりましょう。

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あなたの個人的な物語は、自分自身や信仰をどのように形づくってきたでしょうか。それは意識している以上に大事なことかもしれません。これは、個人のみならず社会にも当てはまります。

拒絶された物語

人生の目的や方向性を見失ったことはありますか。もしあるなら、それはあなただけではありません。私たちが生きているこの時代は、長い間社会を支えてきた中心的価値観や信条が恐ろしい速さで剥ぎ取られていく時代です。

このことがアノミー(価値観の喪失)、あるいは無規範の感覚へと至らせます。ウィキペディア(英語版)によると、アノミーとは「個人が従わなくてはならない道徳的価値や道徳規範、指針が覆されたり機能しなくなったりした社会の状態」です。

社会は概して、人間としての基本的な道徳観念や、創造主によって定められた聖書的価値観を失ってしまいました。私たちは、めいめいが再び自分の目に正しいと見えることを行う(士17:6、21:25)時代を生きています。士師の時代のイスラエルの民は、これで失敗しました。現代においても良い兆候とは言えないでしょう。

預言者イザヤは当時行われていた乱れた行為に対し、強い警告を与えました。「わざわいだ。悪を善、善を悪と言う者たち。彼らは闇を光、光を闇とし、苦みを甘み、甘みを苦みとする。わざわいだ。自分を知恵のある者と見なし、自分を悟りのある者と思い込む者たち」(イザ5:20〜21

世界の主権者であり創造主である神は、人類に原則を与えられました。それは人間が善良な生活を送り、強く正しい社会を築くためです。個人や社会がこれらの原則を拒絶する時、神の心を深く悲しませます。そして、主は懲らしめの手段としての罰を与えなければなりません。

ノアの大洪水

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今日の世界は、大洪水前のノアの時代と酷似しています。イエスは終わりの時がどのようになるのかを説明する際、ノアの時代に言及しました。「人の子の到来はノアの日と同じように実現するのです。洪水前の日々にはノアが箱舟に入るその日まで、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていました。洪水が来て、すべての人をさらってしまうまで、彼らには分かりませんでした。人の子の到来もそのように実現するのです」(マタ24:37〜39

創世記6章5〜6節を読むと、神の心を垣間見ることができます。「主は、地上に人の悪が増大し、その心に図ることがみな、いつも悪に傾くのをご覧になった。それで主は、地上に人を造ったことを悔やみ、心を痛められた

『Flood Gates』(洪水の水門)の著者デイビッド・パーソンズ氏は、その書で次のように書きました。「(ノアの時代の人々は)周りで罪が増大しているにもかかわらず、将来に対して楽観的だった。生活には安らぎがあったが、それが当然だという認識と楽観主義は、欺きに満ちていた。大災害が迫っていたからだ」

続けてパーソンズ氏は現代について思い巡らします。「今日多くのクリスチャンは、我々が同様の時代を生きていると認識している。すなわち、我々が直面している深刻な世界的脅威と、不変の善悪基準の衰退を考える時、この世界は未来についてあまりに楽観的だ。過激な世俗主義や多文化主義などの影響で、多くの人々はもはや絶対的な倫理の存在を信じていない」

実際多くの人々が善を悪と呼び、悪を善と呼んでいます。

物語を取り入れる

しかし、将来に全く希望がないわけではありません! 信仰の民として私たちには揺るがない土台と霊的な遺産があります。預言者エレミヤは当時の人々に次のように警告しました。「主はこう言われる。『道の分かれ目に立って見渡せ。いにしえからの通り道、幸いの道はどれであるかを尋ね、それに歩んで、たましいに安らぎを見出せ……」(エレ6:16

何百年もの間、聖書的遺産は信仰の土台であることが証明されてきました。私たちはそれを保つことで恵みを受けています。悲しいことに、教会で育った人を含め現代人の多くは、いにしえからの神の道との強い結び付きを失ってしまいました。聖書の知識は急激に衰退し、この世の影響が浸透しています。私たちは、どうすれば自分の生活、家族、信仰共同体の土台を確かなものにできるでしょうか。答えは単純です。それは家族の物語を説明することです。

ユダヤ民族は、家族の物語が持つ力が真実であることを幾度となく証明してきました。何世紀にもわたり、ユダヤ人は神の価値観を拒絶する多くの異文化の間に散らされていました。しかし、神の選びの民として、神が家族に与えた聖書の力強い物語の中に土台を置く方法を見いだしたのです。

出エジプト

過ぎ越しの祭りの様子。テーブルにセデルが並びます
Photo by Ofir.1970/wikimedia.org

一例として、エジプトの奴隷生活から脱出した出エジプトを見てみましょう。これは、言わばユダヤ民族の創造の物語です。この決定的な出来事は、ユダヤ文化のあらゆる節目で強調されます。例えば、厳格なユダヤ教徒は朝ごとの祈りで『海辺のモーセの歌』(出14:30〜15:19)を読みます。また、毎年過ぎ越しの祭りの食事(セデル)の最中、子どもたちに焦点を当てます。実際、過ぎ越しの祭りの主な目的の一つは、子どもたちに教えることです。出エジプトの物語でも子どもたちについて3回言及されています。

「あなたがたの子どもたちが『この儀式には、どういう意味があるのですか』と尋ねるとき、あなたがたはこう答えなさい。『それは主の過越のいけにえだ。主がエジプトを打たれたとき、主はエジプトにいたイスラエルの子らの家を過ぎ越して、私たちの家々を救ってくださったのだ。』」すると民はひざまずいて礼拝した」(出12:26〜27

その日、あなたは自分の息子に告げなさい。『このことは、私がエジプトから出て来たときに、主が私にしてくださったことによるのだ。』」(出13:8

後になって、あなたの息子があなたに『これは、どういうことですか』と尋ねるときは、こう言いなさい。『主が力強い御手によって、私たちを奴隷の家、エジプトから導き出された。』」(出13:14

過ぎ越しの食事中、子どもたちは伝統的に「なぜ今日は特別な食べ物を食べ、特定の慣習を守るのか」について四つの質問をします。食事の終わりごろになると、子どもたちは、前もって隠しておいたアフィコーメン、すなわち裂かれたマッツァ(種なしパン)の一片を必死に探します。アフィコーメンを見つけた子どもには特別な賞品が贈られます。また、多くの家庭では「賢い息子」「悪い息子」「単純な息子」「問うことを知らない息子」という4種類の息子の伝承を朗読します。各家庭は、子どもたちを巻き込む創造的な方法を見いだし、過ぎ越しの食事を記憶に残る学習体験にするのです。

あなたの物語とは?

シェマー(聞け)として知られる申命記6章4〜8節は、ユダヤ民族の土台となる聖句です。「聞け、イスラエルよ。主は私たちの神、主は唯一である。あなたは心を尽くし、いのちを尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。私が今日あなたに命じるこれらのことばを心にとどめなさい。これをあなたの子どもたちによく教え込みなさい。あなたが家で座っているときも道を歩くときも、寝るときも起きるときも、これを彼らに語りなさい。これをしるしとして自分の手に結び付け、記章として額の上に置きなさい

ドアの外に取り付けられたメズーザ
Photo by Michio Nagata

シェマーのみことばは、子どもたちへの教育について言及しています。厳格なユダヤ教徒は、常に聖書を意識するためメズゾット(出入口に取り付ける聖句を入れる容器〈メズーザ〉の複数形)を自宅のドアの内側と外側の枠に取り付けます。これらの小さな容器に入っているのは、シェマー及びそれに関連する申命記11章13〜21節の聖句です。部屋から部屋へ移動したり、家に入ったりする時に、ユダヤ人は敬虔(けいけん)にこのメズーザに触れます。

このように、神のことばを日常に創造的に取り入れるにはどうしたらいいでしょう。私自身の経験では、祖母の寝室にあったイザヤ書26章3節の額が忘れられません。「志の堅固な者を、あなたは全き平安のうちに守られます。その人があなたに信頼しているからです」。このみことばは常に私の記憶にとどまっています。

私たちクリスチャンは、信仰によってアブラハムの霊的な子孫であると信じています(ガラ3:7〜8)。「あなたがたがキリストのものであれば、アブラハムの子孫であり、約束による相続人なのです」(ガラ3:29

私たちはユダヤ人になったわけでも、神の計画の中でユダヤ民族に取ってかわったわけでもありません。しかし使徒パウロは、私たちが恵みにより、イエスを信じることによって、イスラエルに与えられた祝福の一部になるのだと教えています(エペ2章)。

信仰の源泉に基づき、聖書的遺産に関する知識を新たにする必要があるかもしれません。聖書の物語を喜び、あなたが前進する力としましょう。このような闇が迫る時代にあって、世界が何よりも必要としている土台は、聖書の真理です。

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