ティーチングレター

国籍

文:シェリル・ハウアー(BFP国際副会長)

私たちの国籍は天にあると聖書は語ります。
では、天の国民になるとは、どのような生き方を指すのでしょうか。

Photo by ArekSocha/Pixabay

最近、国籍について集中的に学ぶバイブルスタディーに参加する機会に恵まれました。この世の国や天の御国の市民になるとはどういうことなのか、その理解を深めるための話し合いは興味をそそられるものでした。このティーチングレターでは、国籍について真に理解することが、神の国の一員である私たちの人生にどのような影響をもたらすのか、深く学んでいきたいと思います。

国民とは何か

ウェブスター辞典によると、国民とは「政府に忠誠を誓い、政府から保護される資格を有する住民または帰化人、または自由人の権利と特権を有する者」と定義されています。

人は、血統(生まれつき)か、帰化(国籍を得るための法的手続き)によって国籍を得ます。今日では投資プログラムによって国籍を購入できる国もあります。どのような形で国籍を得るにせよ、すべての国民はその国の法律を尊重し、順守することが求められ、破った場合は罰則を受けることになります。また、税金を納め、社会の一員となり、他人の権利を尊重することも求められます。

しかし、国民が有するのは、こうした責任だけではありません。政府からの恩恵を受ける権利も持ちます。その権利とは、個人及び国家の保護、選挙権、裁判を受ける権利、国によっては生活の自由や幸福追求の自由が含まれることでしょう。

では、天の国籍とはどういうものでしょうか。国籍を霊的に適用するとどうなるでしょうか。ラビは、現実世界と霊的世界の両方の国籍を理解するには、トーラー(モーセ五書)にさかのぼる必要があると語っています。私たちクリスチャンにとって、これは一つの物語から始まると思います。

闇の国

それは、冷酷な暴君に支配された闇の国に住むある人の物語です。政府には悪がはびこり、至る所に不義が広がっていました。法律がどれほど不当であっても従わざるを得ず、それを破るなら耐え難い罰を受けなくてはなりません。支払った税金は、気まぐれで邪悪で不公平な指導者の資金源となり、「もはやどうすることもできない」とその人は感じていました。

しかし、すべてが一変する出来事が起こりました。偉大で慈悲深い隣国の王から移住を勧められたのです。最初は、移住に必要な資金が無いのでためらっていましたが、王は「代金は既に支払われている。だから心配することはない」と断言してくれました。

闇から光へ
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ところが、邪悪な暴君はそう簡単には解放してくれません。移住を阻止するため、あらゆる手を尽くし、妨害をしてきます。けれども、慈悲深い王がその人を解放するために途方もない金額を支払ってくれたため、暴君は移住を阻止できなくなりました。慈悲深い王はその人の手を取り、闇の国から光の国へと国籍を移しました。

これこそ自分の物語だと感じるクリスチャンは多いでしょう。コロサイ人への手紙1章13節にあるように、私たちは慈悲深い偉大な天の王から移住を勧められるまで、闇の力の支配下で生きてきました。しかし、帰化したことで天の国民となりました。私たちは、新しい住まいと身分に適応する一歩を踏み出したのです。

さらに、私たちは新しい考え方と行動を学び、言葉遣いも変える必要があります。争い、恐れ、恥、心配、無力といった言葉やそれに伴う考え方は、平安、勇気、赦し、喜び、力に置き換えられました。さらに、聖書がガイドブックとなったのです。

パウロと国籍

私たちの国籍は天にあります」(ピリ3:20)。使徒パウロは、国籍という概念をこのように紹介しています。パウロがローマ市民であったことを考えると、これは力強い宣言です。

パウロの時代、ローマ市民権を持つ人は非常に尊敬されていました。市民権にはランクがあり、最高ランクはパウロのように生まれながらの市民です。市民権を購入した者は、その恩恵を受けられても、それに伴う社会的評価は享受できませんでした。パウロの出身地であるタルソは、ローマ世界における交易の要所であったため、パウロの地位はさらに高まりました。しかもタルソには名門大学があり、学術の中心地とも見なされていたのです。

パウロは生涯、市民権を享受し、その特権をたびたび用いました。使徒の働き22章では、市民を裁判無しで鎖につないだり、鞭打ったり、処刑したりすることを禁じるローマ法によって救われています。兵士に縛られ鞭打たれようとした時、パウロが「自分はローマ市民だ」と伝えたため、兵士は手を引きました。市民権を購入した千人隊長は、パウロが生まれながらの市民であることを知って恐れ、保護しました。一度ならずパウロは市民権によって命を救われています。

しかしパウロは、ローマ市民権の恩恵がどれほどのものであったとしても、救い主との関係の偉大さに比べれば、ちりあくたに過ぎないと弟子たちを励ましました。パウロが言ったように、私たちの国籍は天にあります。神の国の国民には、守り、備え、安全、導き、命、そして永遠の未来がすべて保証されているとパウロは語りました。その神の国に私たちは忠誠を尽くすのです。

トーラーと国籍

トーラー(モーセ五書)が与えられた当時、イスラエルの陣営は純粋な意味で国家とは言い難いものでした。イスラエルの12部族をわずかに結び付けていたのは、先祖の歴史と、古代の祖国を回復させるという神の約束だけです。しかし、神のご計画は単なる回復よりもはるかに壮大なものでした。イスラエルは約束の地に入り、かつてなかったような社会、国家をつくり上げるのです。この国は、トーラーを中心とした神の原則の上に建てられ、平和と全人類の尊厳に献身する国です。世界はイスラエルを通して、神の意図された国の姿と、神が望んでおられる国家機能を学ぶことになります。

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ジョナサン・サックス師によれば、社会は「私たち」という意識を持たない限り、良くなりません。つまり、「私」にとって何がベストかではなく、「私たち」全員にとって何がベストかを考えるのです。これはトーラーを中心に据えるということです。国家は、弱者を思いやる時に強くなり、貧しい人を思いやる時に裕福になり、脆弱(ぜいじゃく)な人を思いやる時に強靭(きょうじん)になります。サックス師は、国家が良くなるには、そこに住む国民が他人への愛と気遣いを示す選択をすることが必要だと語りました。

国籍の土台が創世記にあることは、クリスチャンとユダヤ人の学者が共に認めています。「これはアダムの歴史の記録である。神は、人を創造したとき、神の似姿として人を造り、男と女に彼らを創造された。彼らが創造された日に、神は彼らを祝福して、彼らの名を『人』と呼ばれた」(創5:1〜2

最初に、人類は「神の似姿として造(られた)」とあります。神はすべての人に神を求める心、また命と尊厳を与えられました。これは神がすべての人に与えられた権利であり、聖書的国籍とでも呼ばれるものの基礎となっています。

トーラーはすべての人の命に最高の価値を置き、周りの人々を世話する責任を一人ひとりに課しています。「……あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい。わたしは主である」(レビ19:18)。これは「私たち意識」の最たるものです。

トーラーを読むと、「私たち意識」は、愛されない人をも愛するような、自らの能力を超えた愛を要求していることが分かります。「みなしごや、やもめのためにさばきを行い、寄留者を愛して、これに食物と衣服を与えられる。あなたがたは寄留者を愛しなさい。あなたがたもエジプトの地で寄留の民だったからである」(申10:18〜19

貧しい人への配慮も必要です。「もしあなたの同胞が落ちぶれて、あなたのもとで暮らしが立たなくなったなら、彼をあなたのところに在住している寄留者のように扶養し、あなたのもとで生活できるようにしなさい」(レビ25:35)。さらにレビ記19章9〜10節はこう命じています。「あなたがたが自分の土地の収穫を刈り入れるときは、畑の隅々まで刈り尽くしてはならない。収穫した後の落ち穂を拾い集めてはならない。また、あなたのぶどう畑の実を取り尽くしてはならない。あなたのぶどう畑に落ちた実を拾い集めてはならない。それらを貧しい人と寄留者のために残しておかなければならない。わたしはあなたがたの神、主である

労働者も適切な待遇を受ける必要があります。「貧しく困窮している雇い人は、あなたの同胞でも、あなたの地の、あなたの町囲みの中にいる寄留者でも虐げてはならない。その人の賃金はその日のうちに、日没前に支払わなければならない。彼は困窮し、それを当てにしているのだから。……」(申24:14〜15

トーラーでは、神が意図された国家の姿と、国民が成功するための行動が、文字どおり何百箇所にわたり説明されています。新約聖書を読む時、同じ命令、同じ心、時には同じ聖書のことばが見つかるでしょう。それは、イエスと初代教会の指導者たちがトーラーと全く同じメッセージを語っていたからです。

天の国民

パウロの時代、神の国と天の御国という言葉は同義語でした。両者とも、死後に行く「天国」というよりは、神の民が神の原則に従って生きる場所を指しています。パウロは、私たちが聖書的国籍にふさわしい者へと成長するよう励ましています。それはトーラーの真髄であり、自分自身を心から愛するように隣人を愛する「私たち意識」を持つ者になるということです。

20世紀の聖書教師ウォーレン・ワーズビーは言います。「クリスチャンは地上と天上の二重の国籍を持っている。天上の国籍を持つがゆえに私たちは地上でより良い国民になれるはずである」。これを最も良く言い表しているのは預言者ミカのことばでしょう。「主はあなたに告げられた。人よ、何が良いことなのか。主があなたに何を求めておられるのかを。それは、ただ公正を行い、誠実を愛し、へりくだって、あなたの神とともに歩むことではないか」(ミカ6:8

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