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神の武具を身に着ける -後編-

シェリル・ハウアー/国際開発ディレクター

前号では、パウロがエペソの人々に書き送ったメッセージ(エペソ6:10-18a)から、"ローマ兵の武具"という視覚教材が教える霊的な戦いへの臨み方について学んでまいりました。今号も引き続き、このみことばに書かれている各武具の示す意味を掘り下げてまいりましょう。

正義の胸当て

武装したローマ軍兵士

ローマ兵の胸当ては、槍などが貫通しないように金属を重ねて作られていました。兵士の上半身を前後から覆い、肩から腕の部分にかけても守るように、金属が足してありました。非常に頑丈でしたがとても重量があるため、しばしば兵士の皮膚が擦りむけ、痛みで戦えなくなるほどでした。それを防ぐために、武具の下にチュニックを着、首を保護するために特別な首当てを着用しました。それは真っ赤な布地でフォーコールと呼ばれました。これも皮膚の擦りむけを防ぎましたが、敵の絶好の的となりました。矢の的をのどの付け根にある、胸当てからはみ出たそのフォーコールに合わせれば、ローマ兵を一本の矢で殺すことができたのです。

パウロは、エペソの人々の義をこの胸当てで保護すると言っています。ここで彼はどのように義を実践するのかということについて言及しています。信じる者たちが日々の誘惑に立ち向かい、正しい選択をし、真の神をあがめ敬う生活を送らなければならないということです。しかし、そのような義には重量があって、着心地が悪く、時に厄介なこともあります。擦りむかないように妥協するならフォーコールを生じてしまい、敵にとって申し分のない標的となります。

福音の靴をはく

ローマ兵の靴はカリガと呼ばれ、ローマにある考古学的発掘現場で発見される最も一般的なものです。革製の靴がこれほどまで長く保存できたのは、多くの金属部品や靴底に埋め込まれた鋲釘(びょうくぎ)で作られていたからです。それらによって驚くほど長持ちしたうえ、兵士たちが滑りやすい岩山を登ったり、砂地を走ったりするときに強力な滑り止めとなりました。さらに兵士たちは靴を武器にもしました。白兵戦において敵が倒れてまだ死んでいない場合、カリガで踏み付けて容易に殺すことができました。ここでパウロはエペソの人々に、福音が永遠に至る鍵であることを思い出させます。信じる者は永続するのです。信じる者たちの歩みは、道の状態にかかわらず、滑ったり落ちたりすることなく、敵の策略を福音の靴で直ちに踏み付けるのです。

救いのかぶと

1世紀に使用したローマのかぶとは独特の作りでした。敵を威嚇するために背の高さを錯覚させる設計で、首と耳を防御するよう装備されていました。また、ファルクスと呼ばれる武器から兵士を守るために、内側は数本の金属棒で補強されていました。ファルクスは木の柄に取り付けられた湾曲した刃を持ち、一撃で相手を切断する武器でした。湾曲した刃で一度切り付ければ手足は切断され、首は切り落とされました。かぶとに装備した金属棒は、それを防ぐためのものでした。ここでパウロは頭部が特定の攻撃目標になることを警告しています。敵はエペソの人々の思いが新たにされ、福音が広がることがないように躍起になっているのです。しかしパウロは絶えず目的を持ち、確固たる救いの確信を持って歩むようにと言っています。

御霊の剣――神のことば

ローマ兵はそれぞれ複数の武器を装備していました。一般的には遠距離用の槍を使いましたが、近距離用の短めの槍を使うこともありました。また、兵士はスパサと呼ばれる剣と同時に小型で軽い剣も持ち、ベルトの脇には短剣が差してありました。そして盾の内側にはプラムタと呼ばれる鉛の付いた数本の投げ矢がありました。これらの投げ矢にはかぎがあり、人や馬を効果的に殺すことができました。かぎが食い込みひどい激痛を引き起こすので、投げ矢に当たった者はすぐに動けなくなりました。このことからプラムタは「火のような投げ矢」と呼ばれていました。実際ローマ兵は、武器だけではなく兵器庫も運んでいたことになるのです。兵士は自分の持っている武器を熟知し、どれを使用したらよいか瞬時に判断し、次々と武器を繰り出す能力が必須でした。

パウロが取り上げた中で実際の攻撃の武器は、この御霊の剣のみです。そのイメージは強力かつ明確です。エペソの人々が自分たちの装備を効果的に用いようとするならば、その武器について熟知していなければなりません。イエスが荒野でサタンの誘惑を受けられたときのように、いつどのみことばを用いるかを見極めなければなりませんでした。敵の一つひとつの攻撃に対して、ふさわしいみことばを用いて迎え撃ったとき、敵は破られました。

信仰の大盾

ローマ軍の盾にはカーブが付いていました。それは敵の打撃、矢、投げ矢をそらすためでした。木材が数層に重ねられ、ラッカーが塗られたキャンバス地と子牛の皮で覆われていました。手の幅ほどの厚さに重ねられた木製で、鉄の縁取りによって補強されていました。その当時、その盾を貫通することのできる武器はほとんどありませんでした。パウロが人々の信仰が盾となるというとき、ヘブル的解釈では信仰に満ち満ちた状態、すなわち神に生活のすべてを捧げ続ける人生について述べています。その信仰によって、しっかりした縁取りのある強力で厚みのある盾が作られ、敵のすべての攻撃をそらすことができます。

ローマ軍の編隊

ローマ軍の亀のような編隊テストゥド

パウロの書いた手紙の読者たちは、ローマ軍の組織やローマ兵が装備している武器を熟知していたのと同様に、ローマ軍の編隊についても詳しかったことでしょう。テストゥドと呼ばれる亀のような編隊は、パウロの時代の教会のみならず今日の教会にも強いインパクトを持っています。

戦場で、その亀のような移動防壁を組むように命じられると、まず幾人かの兵士たちが正方形の輪郭を作ります。即座に別の兵士たちがその中に入っていって正方形を描き、多くの兵士によって整えられます。正方形に組まれた兵士たちはすばやく互いの盾を固定して、貫通不可能な壁で自分たちを覆います。中央にいる兵士たちは頭上に盾を持ち、同様に固定します。まるで甲羅に頭を引っ込めたカメのようです。一人の兵士がそのテストゥドの目となるよう任命され、内側で真っ暗な中にいる兵士まで聞こえるように叫びました。そしてその編隊が前進し続けるために、どの方向へどう踏み出せばよいかを指示しました。

パウロは何と素晴らしい実例をエペソの人たちに見せたことでしょう! 彼は各自どのように武器を用いたらよいか、分かりやすい実例を示しました。しかし、兵士一人では長期間持ちこたえることができません。当時の人々はローマ軍の戦闘部隊についてよく知っていましたから、パウロは実例を示し、そのような戦闘部隊の一員となるよう人々を諭しました。自分自身を防御すると同時に、兄弟と共に兄弟のため同じように戦うのです。「すべての祈りと願いを用いて、どんなときにも御霊によって祈りなさい。そのためには絶えず目をさましていて、すべての聖徒のために、忍耐の限りを尽くし、また祈りなさい。」(18節)自分自身を囲む盾は固定され、揺れ動くことのない信仰の固い壁に囲まれ、主の声だけを聞いて主の命令に従って前進するのです。「私は義をまとい、義は私をおおった。私の公義は上着であり、かぶり物であった。」(ヨブ29:14)

異邦人に示されるヘブライルーツ

パウロの手紙を読む異邦人読者にとっては、エペソの人々への指示の多くは斬新で聞き慣れないものでした。霊的領域、サタンや神に敵対する者、天の戦い、個々人への悪霊の攻撃という概念は旧約聖書に明確に表現されていて、1世紀のユダヤ教の主流の教えの一部でした。さらにパウロの時代のユダヤ人にとって、身にまとうとか着るといった視覚的に理解しやすい比喩的表現はよく知られた方法でした。旧約時代の人々は身に着けるものとして義をまとい(ヨブ29・14)、賛美の外套を着(イザヤ61:3)、義をよろいのように着、救いのかぶとを頭にかぶる(イザヤ59:17)と聞いていました。

そしてパウロはエペソの異邦人にこの概念を紹介したとき、おそらく人生のあらゆる領域に関する七つの教訓を用いることで、神が私たちのひな形として置かれたイスラエルを思い出したことでしょう。イスラエルは彼らの父祖の誠実さによって建てられ、神の熱心な愛によって維持され、神の教えに心を留めるすべての者たちに、安全と守りとはどのようなものかを教えました。同様に、パウロがエペソの人々に示した七つの教訓は、信じる者たちに安全と守りを与えるものとなりました。それは一つひとつが信仰によって構成され、信仰的な選択と神ご自身の寛大で熱心な愛によって維持されており、それを信じる者に豊かに備えられているのです。

「イエス・キリストは、きのうもきょうも、いつまでも、同じです。」(ヘブル13:8)神のメッセージは決して変わりません。神はいつも、待ち構える戦いのことを子どもたちに警告されています。同時に、神の子どもたちが神の教えに従うなら、いついかなる場合でもすべての敵に対する勝利を約束されているのです。

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