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ティーチングレター

世界に台頭する反ユダヤ主義 -前編-

TEXT:レベッカ・J・ブリマー/B.F.P.Japan編集部

ウクライナの反政府デモ支持を表明するキリスト教聖職者 Photo by Wikipedia

今月と来月は、世界に台頭する反ユダヤを覚え、私たち教会はそれに対してどう行動を取る必要があるのかについて共に考えていきたいと思います。

ウクライナ危機

ウクライナの政権が崩壊。アメリカやEU(欧州連合)、ロシアなどの大国を巻き込み日々深刻化しています。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。ウクライナは、この数年急速に経済が失速し、金融危機の只中にあります。経済回復のために、EUとの「連合協定」が進められてきました。この協定はやがてEUに加盟することを前提としています。しかし、ロシアとヨーロッパをつなぐ大動脈であるウクライナのEU加盟を良しとしないロシア政府は、前ヤヌコビッチ大統領を説得し、この協定締結を強引に取り止めさせました。突然の「連合協定中止」の発表があった2013年11月22日から、親EU派の住民が首都キエフでデモを始めました。最初は小規模だったデモが、見る間に拡大し、12月1日のデモには35万人が参加したと言われています。

ネオナチの台頭

ロシアのネオナチの青年 Photo by Wikipedia

ウクライナは世界でも有数の政治腐敗大国です。10人に一人が貧困線以下の生活を強いられる中、一部の政治家や特権階級の人々は贅を尽くした生活をしています。その上、EU側に立つ民族とロシア側に立つ民族の間には常に潜在的対立があり、国民の不満はくすぶり続けていました。それが今回デモという形で爆発し、100人を超える死者が出ています。

驚くべきことは、この対立の火の粉が、ウクライナに住むユダヤ人に及んでいることです。デモ隊の中には、ネオナチ(ナチズムを復興しようとする人々)が多く含まれています。では、ウクライナの経済危機と、ユダヤ人迫害にどのような接点があるのでしょうか。

ネオナチの特徴的な思想として、白人至上主義、外国人廃絶があります。他の国同様、ウクライナでも外国人による犯罪率が高まっています。こうした外国人犯罪者の取り締まりにも、刑務所収監にも税金が使われます。また、自国民の生活がままならない中、外国人が政府から保護を受けていることも許せません。彼らにとって、罪を犯す外国人と、ウクライナに長年住み、きちんと納税義務を果たしているユダヤ人との間に区別はありません。何年ウクライナに住んでいようがユダヤ人は外国人に区分され、廃絶の対象となるのです。「愛国心」や「失業・賃金の低さ、社会保障に対する怒り」といった正当化された大義に若者達の心が奮わされ、急速にネオナチが浸透しています。今回、破壊行為の先頭を切ったのもネオナチの若者達です。彼らの思想によれば、暴力を用いてでも外国人を廃絶し、白人至上主義の民主国家を樹立しなければならないのです。

ウクライナにおける反ユダヤ

ウクライナには反ユダヤの歴史が長年刻まれています。中世、ウクライナに住むユダヤ人の数が急速に増え、商才を発揮し成功を収めます。それを良く思わないウクライナ人との間に緊張関係が生じました。ウクライナを支配してきたロシア、ポーランド、あるいはドイツは、この緊張関係を利用しました。ウクライナが独立して国家を樹立しようとするたびに、権力者はいつも彼らの目をユダヤ人に向けさせ対立させたのです。例えば、17世紀にはポーランドからの独立運動が起こりましたが、最終的にこの反乱はユダヤ人に対する迫害となり、約50万人ものユダヤ人が犠牲になりました。ロシア革命を受けて、1919年、再び反乱を試みましたが、この時もまた、約30万のユダヤ人の命が犠牲となるに留まりました。

迫害が頂点に達した第二次大戦時には、率先してナチス・ドイツに協力をしました。他の被占領国とは違い、ウクライナの民間人がユダヤ人狩りを積極的に行いました。

ウクライナの民間人によって
公衆の面前で服を脱がされる
ユダヤ人女性
逃げ惑うユダヤ人女性に石を投げる
ウクライナの子ども

当時、ウクライナのユダヤ人口は270万人と言われていますが、実に150万人が殺されました。ユダヤ人が虐殺され、埋められた場所はウクライナのほぼ全域に分布し、その数は720余りに上ると言います。キエフ郊外にあるバビ・ヤールという谷間地帯では、わずか二日の間に、3万4千人のユダヤ人が虐殺されました。さらに、ロシアによるユダヤ人迫害の代名詞「ポグロム」もウクライナの地からスタートし、17世紀から20世紀まで、ユダヤ人大量虐殺が断続的に続きました。

反ユダヤ主義の根源

マルチン・ルター
1483〜1546年

1945年、世界は初めてナチス・ドイツの残虐な行為、600万人のユダヤ人虐殺の全容を知り、驚愕(きょうがく)しました。ナチスが自らの行為を正当化するために、マルチン・ルターら、偉大なキリスト教界指導者たちの反ユダヤ的書物を引用した事実は、さらに衝撃的でした。ルターは『ユダヤ人と彼らの嘘について』という書物を著し、ユダヤ人への迫害及び暴力を理論化し熱心に提唱しました。(1982年、ルーテル世界連盟はルターの反ユダヤ主義との決別を正式発表。この公式発表に至るまでに、多くの個人や教団が反ユダヤ主義を悔い改めている。)

反ユダヤを唱えたクリスチャン指導者はルターだけではありません。こうした指導者の影響をヨーロッパ諸国は強く受け、その価値観をDNAに刻むこととなりました。平和が続く間、反ユダヤ主義はなりを潜めますが、一度経済危機や戦争が起こると、諸悪の根源として再び反ユダヤが台頭してくるという歴史を繰り返してきました。まさに今、同じ歴史が繰り返されようとしています。

ユダヤ人迫害の温床

ユダヤ人迫害の温床となった一つは、キリスト教国によるユダヤ人への「キリスト殺し」の嫌疑です。ユダヤ民族に対する恐ろしい迫害は、教会のこの教えのために、何世紀もの間正当化され続けてきました。イースターは、各地でユダヤ人にとって恐怖の日となりました。クリスチャンが「キリスト殺し」であるユダヤ人に対して破壊、略奪、暴行を行う日であったからです。「ユダヤ人がキリスト殺し」だという考えは、クリスチャンの思考に今でも影響を及ぼし続けています。

教会とイスラエル

教会は今、イスラエルをどのように見ているのでしょうか。1948年、イスラエル国家の誕生は、キリスト教会史における一つの分岐点になりました。この年、ユダヤ民族は紀元70年に追放されたその同じ土地に、国家を再建したのです。クリスチャンは、聖書預言の成就を、文字どおり目の当たりにしました。教会のものであるかのように思っていたイスラエルへの聖書的約束を、キリスト教世界は、突然、考え直さなければならなくなったのです。

今、多くの教会が聖書の命令を心に留めてイスラエルを祝福しています。しかし、逆の立場を取るクリスチャンも多く存在します。置換神学(教会がイスラエルに置き換えられたという教え)を支持する教会は依然としてあります。また、イスラエル・ボイコット運動を通してネガティブ・キャンペーンを繰り広げるクリスチャンも多く存在します。

友好的と批判的、正反対のクリスチャン像に困惑し、実際のところはどうなのかとユダヤ人の友人に聞かれることがあります。そんな時、私はこう答えます。「聖書を信じ、字義どおりにそれを解釈するクリスチャンは、イスラエルを愛する傾向にあります。聖書を神話化し、精神修養的なものとするクリスチャンは、イスラエル及びユダヤ民族とのつながりを求めない傾向にあります。」

聖書に基づく

キリスト教世界は、初期の教父たちから、現在に至る神学の多くを受け継いできました。その教父たちは、キリスト教をその母体となった「ユダヤ教」から切り離しました。ユダヤ人の文化や慣習を切り離したことにより、解釈できない聖書箇所が生じるようになりました。そのため、聖書は字義どおりではなく、むしろ寓話的に解釈されるようになりました。そして、聖書は「霊的イスラエル」である教会のためにあると定義されるようになりました。この「霊的イスラエル」という用語を最初に用いたのは、殉教者ユスティノスでした。その後、多くの神学者がこの言葉を用いることになります。この用語は異邦人教会をユダヤ人に代わる、「新しい選びの民」とする置換神学に発展していきました。

しかし、近年、神は多くのクリスチャンたちに、イスラエルへの愛を植えています。この愛には、新たな聖書理解を伴う必要があります。それは、何年にもわたり受け継いできた反ユダヤ主義という視点から脱却した新しい神のことばの理解です。

ウクライナの一部の教会でまかれた「ユダヤ人廃絶」のビラ(2014年4月プロジェクトレポート)には衝撃を受けました。こうした動きはウクライナだけのものではありません。来月は、さらに教会はどのようにこの問題に対処していけば良いのかを考えていきたいと思います。

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