文:ビル・アダムス(BFPアメリカ支部)
昨今、世界中で猛威を振るう反イスラエルデモでは、
イスラエル国家が存在する権利を否定しています。
しかし、神は何と語っておられるのか、
新約聖書を中心に探ってまいりましょう。
一昨年10月7日のハマスによるテロ攻撃から一年以上が過ぎました。ホロコースト以来ユダヤ人に対して行われた最悪の残虐行為が、反ユダヤ主義の津波を引き起こしたことは特に悲劇的でした。しかし、イスラエルに強固に反対する人々は「自分たちは単に反シオニストだ」と主張し、反ユダヤ主義だという非難を否定しています。
シオニズムとは、ユダヤ人が先祖伝来の祖国、聖書の地イスラエルに対する権利を有しているという信念です。一方、反シオニズムとは、ユダヤ人はイスラエルの地に対して何の権利も持っておらず、現代のイスラエル国家の復活は不当であり、したがってイスラエルには存在する権利もないという信念です。
シオニズム問題については新約聖書でより詳しく見ることができます。
それはイスラエルの地
「立って幼子とその母を連れてイスラエルの地に行きなさい」(マタ2:20a)
このことばは、イエスの一家がエジプトに逃れていた際、主の使いが父ヨセフに指示したものです。行き先に注目してください。「パレスチナ」ではなく「イスラエルの地」です。この地域が天でどのように定義されているかを示しています。
次に、イエスについて考えてみましょう。イエスは、ヘロデによるベツレヘムの男児殺害から逃れたユダヤ人亡命者の一人です。ヘロデの死後、一家はイスラエルに戻りました。これは、後の時代にイエスの民がローマ人によって追放され、クリスチャンの祝福と協力を受けながら神によって帰還する原型です。
私たちは、他の兄弟姉妹に「イスラエルの地に行ってください」と熱心に勧めます。イスラエル旅行は単なるバケーションではありません。ご自分の民をご自分の地に再び集めておられるイスラエルの神と出会い、人生が変えられる機会なのです。
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観光客として訪れた多くのクリスチャンが、この地を去る時には世界中から帰還したユダヤ人に奉仕する使命を持って出発します。イスラエルに本部を置くキリスト教団体は幾つかあり、BFPもその一つです。BFPでは50年以上にわたり、世界中から集まった何千人ものボランティアが、困窮する帰還ユダヤ人に食料、生活用品の他、何よりも必要な精神的支えを提供してきました。
神の地上の家族
「すると、王は彼らに答えます。『まことに、あなたがたに言います。あなたがたが、これらのわたしの兄弟たち、それも最も小さい者たちの一人にしたことは、わたしにしたのです。』」(マタ25:40)
イエスが「王」として再臨される時、裁きの座に呼ばれるのは個々人ではありません。国々です。「……すべての国の人々が御前に集められます。人の子は、羊飼いが羊をやぎからより分けるように彼らをより分け」(同25:32)、説明を求めます。この時の裁きの基準は、神が「わたしの兄弟たち」と呼んで大切にされたご自分の民を、国々(異邦人たち)がどう扱ったかです。
イエスの地上の家族に仕えることは私たちの義務であり、それが主の誉れとなるのです。
シェマーを宣言する
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「イエスは答えられた。『第一の戒めはこれです。「聞け、イスラエルよ。主は私たちの神。主は唯一である。あなたは心を尽くし、いのちを尽くし、知性を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。」第二の戒めはこれです。「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい。」これらよりも重要な命令は、ほかにありません。』」(マル12:29〜31)
この命令はどこから来たのでしょうか。これは、ユダヤ人が最も大切にしているシェマーの祈りです。「聞け、イスラエルよ。主は私たちの神。主は唯一である」(申6:4)
イスラエルの唯一真の生ける神を宣言し、イエスの愛の命令を果たすことは、クリスチャン・シオニストの特徴でもあります。
タナハのすべて
「わたしについて、モーセの律法と預言者たちの書と詩篇に書いてあることは、すべて成就しなければなりません」(ルカ24:44b)
イエスが、タナハ(旧約聖書)に記されたことはすべて成就すると語り、旧約聖書の聖典性と権威を認めたことは重要です。
ペテロは使徒の働き3章22節で、タナハが語る「すべて」に聞き従わなければならない、と語りました。パウロは「律法にかなうことと、預言者たちの書に書かれていることを、すべて信じています」(使24:14b)と明言しました。この「すべて」には、将来異邦人がイスラエルの帰還を助け、イスラエルを慰め、神の栄光のためにシオンの回復を助けることも含まれます。イスラエルの回復は旧約聖書で定められ、新約聖書で確実なものとされ、今、目の前で成就しようとしています。
ユダヤ人の間に、ユダヤ人と共に
「野生のオリーブであるあなたがその枝の間に接ぎ木され、……ともに受けている」(ロマ11:17b)
教会は、イスラエルに取って代わるものではなく、神が栽培されたオリーブの木であるユダヤ人に加わるために誕生しました。野生の枝(異邦人)であったにもかかわらず、神の奇跡の御業により「元の性質に反して」(ロマ11:24)接ぎ木されたのだとパウロは説明しています。
ローマ人への手紙11章31節はこう教えています。「あなたがたの受けたあわれみのゆえに……彼ら自身も今あわれみを受ける」(一部抜粋)。私たちはユダヤ人の心を癒やす神のあわれみの器になれると気付いた時、私は心を深く揺さぶられました。
神の民と共に喜ぶ
「私は言います。キリストは、神の真理を現すために、割礼のある者たちのしもべとなられました。父祖たちに与えられた約束を確証するためであり、また異邦人もあわれみのゆえに、神をあがめるようになるためです。『それゆえ、私は異邦人の間であなたをほめたたえます。あなたの御名をほめ歌います』と書いてあるとおりです。また、こう言われています。『異邦人よ、主の民とともに喜べ。』」(ロマ15:8〜10)
このパウロの勧めは申命記32章43節から来ています。神が「ご自分の民とその地のために宥めを行われる」(申32:43)ゆえに、「主の民」イスラエルは苦難を受けても喜ぶのです。神は、異邦人にも「主の民とともに喜べ」と命じておられます。
イスラエルを見守る
「肉によるイスラエルのことを考えてみなさい」(Ⅰコリ10:18a)
パウロは異邦人に対し、イスラエルから学ぶよう教えました。悲しいことに、一部の教会指導者たちは、教会が受け継ぐことのできた財産の中からヘブル文化を取り除いてしまいました。教会はそのために苦しみ、イスラエルはそれ以上に苦しみました。両者の溝は深まり、「キリスト教」のヨーロッパがホロコーストの音頭を取るまでになり、反ユダヤ主義は今日再び最高潮に達しています。
一方で、粘り強く祈り続け、再びイスラエルの側に立った学びを助ける指導者を送り出した教会もあります。BFPの創立者G・ダグラス・ヤング博士は、ユダヤ人の同僚とヘブライ語聖書を学ぶことを決意し、ラビたちの豊かな聖書知識がクリスチャンに恩恵を与えることを知りました。こうしてヤング博士はシオンに導かれ、シオンの山にホーリーランド・スタディー機関を設立し、続けて誕生したのがBFPです。
橋を架ける
「しかし、かつては遠く離れていたあなたがたも、今ではキリスト・イエスにあって、キリストの血によって近い者となりました。実に、キリストこそ私たちの平和です。キリストは私たち二つのものを一つにし、ご自分の肉において、隔ての壁である敵意を打ち壊し(ました)」(エペ2:13〜14)
「ブリッジス・フォー・ピース」の「ブリッジス」(橋)が複数形なのは、上記の聖句に出てくる二つの橋について伝えたかったからでしょう。すなわち、神と人を結ぶ橋、そしてユダヤ人と異邦人を結ぶ橋です。
クリスチャン・シオニストは、架け橋となる努力をしながら、両者の間にある溝を埋めることに取り組んでいます。
全イスラエル、全世界
「私は、印を押された者たちの数を耳にした。それは十四万四千人で、イスラエルの子らのあらゆる部族の者が印を押されていた。ユダ族……ルベン族……ガド族……アシェル族……ナフタリ族……マナセ族……シメオン族……レビ族……イッサカル族……ゼブルン族……ヨセフ族……ベニヤミン族……。その後、私は見た。すると見よ。すべての国民、部族、民族、言語から、だれも数えきれないほどの大勢の群衆が御座の前と子羊の前に立ち、白い衣を身にまとい、手になつめ椰子の枝を持っていた」(黙7:4〜9)
ここに登場する12部族が教会でないことは、シオニストでなくても分かるでしょう。置換神学は、クリスチャンがユダヤ人に代わる約束のイスラエルだと教えますが、黙示録7章には「イスラエルの子ら」(4節)には「生ける神の印」(2節)が押されていると明記されています。ヨハネは全イスラエルが天の御国にいるのを見たのです!
使徒ヨハネは、あがなわれたシオンの子らを見た後、すべての国民、部族、民族、言語の集団という圧倒的な光景に目を転じます。神の救いは、まずユダヤ人、次いで異邦人にも及びます!(ロマ1:16)。
聖書的シオニスト
私が神学校で初めて「クリスチャン・シオニスト」という言葉を耳にしたのは、BFPでボランティア経験のある女性からでした。当初、私にはシオニストと平和は矛盾しているように聞こえ、その主張を不快に思っていました。シオニストとはアラブ人を憎む過激なユダヤ人だと単純に考えていたからです。
しかし、本物のイスラエルとユダヤ人を知る努力をし、神がこの件について語っておられることを学び、本物のクリスチャン・シオニストになるカギは聖書に従うことだと分かりました。ユダヤ人の友や協力者と共に、私たちが神の召しにふさわしい生き方と奉仕ができますように。