ティーチングレター

紅海とヨルダン川

文:文:ピーター・ファスト(BFP CEO)

イスラエルの民が紅海とヨルダン川を渡った奇跡は、
いずれも神の偉大さを表しています。
両者の共通点を振り返りながら、
混乱を打ち破る神の本性(ほんせい)を学んでまいりましょう。

Phto by Mashosh/Shutterstock

聖書の中で最も偉大な奇跡を選ぶとしたら、紅海が分かれ、イスラエルの民が乾いた地を渡った奇跡に落ち着く人が多いのではないでしょうか。ファラオとエジプトに対する神の10の奇跡(災い)が行われた後、推定150万〜300万人の民がモーセに導かれ、奴隷から解放されました。冒頭だけ読めば、「民はその後ずっと幸せに過ごしましたとさ」で終わりそうです。神は勝利を収め、ご自分の民を解放された! そうですよね?

しかし、続きを読むと、事態は急変し、恐ろしい問題が発生したことにショックを受けるはずです。ファラオはイスラエルを手放しませんでした。傲慢(ごうまん)な絶対君主は手を緩めなかったのです。神は出エジプト記14章4節で、頑ななファラオを通して「栄光を現す」とモーセに警告されました。輝かしい解放だと思った次の瞬間、待ち構えていたのはイスラエル民族の大虐殺でした。いったい、どうなるのでしょうか。

物語は一気に山場を迎えます。ファラオは、巨大な戦車軍団を編成し(出14:5〜9)、紅海に逃げ道を阻まれたイスラエルの民に追い付きました。エジプト軍が上げた鬨(とき)の声と戦車の轟音(ごうおん)が聞こえてきそうです。「ファラオは間近に迫っていた。イスラエルの子らは目を上げた。すると、なんと、エジプト人が彼らのうしろに迫っているではないか。イスラエルの子らは大いに恐れて、主に向かって叫んだ」(出14:10)。すべての希望が失われてしまったかのようです。この物語の結末は、イスラエル人が大量虐殺され、わずかな生存者が奴隷として死ぬまで働かされて終わり、となりそうでした。

ところが、神はイスラエルを、まるで投石器で石を投げるように目的地へ飛ばされたのです。暴君ファラオとエジプト軍が迫る中、神は紅海を分け、イスラエルの民に乾いた地を渡らせ、ファラオと軍勢は水にのまれて滅びました。「こうして主は、その日、イスラエルをエジプト人の手から救われた。イスラエルは、エジプト人が海辺で死んでいるのを見た。イスラエルは、主がエジプトに行われた、この大いなる御力を見た。それで民は主を恐れ、主とそのしもべモーセを信じた」(出14:30〜31

再び岸辺で

紅海を渡る奇跡は、神がご自分の民イスラエルと結んだ契約に対する誠実さの極みです。これは、アブラハム(創12:2〜3、15章)、イサク(創17:19〜21)、ヤコブ(創28:3〜4、13〜15)に対する神の永遠のことばに基づいています。しかし今日、水を渡ったもう一つの出来事は見落とされがちです。それは、イスラエルが分かれたヨルダン川を渡ったヨシュア記の出来事です。

ヨルダン川
Photo by Maddie Hunt/bridgesforpeace.com

ヨルダン川を渡ったことがしばしば軽視される主な理由は二つあります。一つ目は、「川」という言葉が「海」よりも狭く、曲がりくねった水域を連想させるからです。二つ目は今日のヨルダン川の状態です。一見すると、十分助走をつければ飛び越えられそうに見えます。

しかし、ミシシッピ川やナイル川を考えてみてください。ミシシッピ川の幅は平均1.6km、ナイル川の幅は平均2.7kmです。この二つの川の浅瀬を、家畜を連れた全国民が歩いて渡るのは至難の業です。ヨシュアの時代、ヨルダン川の幅は100m以上あったと学者たちは考えています。しかもヨシュア記3章15節によると、「ヨルダン川は刈り入れの期間中で、どこの川岸にも水があふれていた」。イスラエルの子らにとってヨルダン川も越えられない障害に見えたことでしょう。

聖書には、民がヨルダン川の川岸で3日間野営したことが記されています(ヨシ3:1〜2)。その後つかさたちは、神が何とかして自分たちを約束の地に連れていってくださることを期待し、民を奮起させました。

この時三つのことが起こりました。ヨシュアはまず、神がイスラエルのために「不思議」を行われると信じ、民に自らを聖別するよう命じます(5節)。ヨシュアは何と驚くべき信仰を示したことでしょう。次に、祭司たちに契約の箱を担いでヨルダン川を渡る準備をするよう命じました(6節)。ここでもヨシュアは揺るぎない信仰を持っています。第三に、神ご自身がヨシュアに命じ、祭司たちに契約の箱を担がせ、水の中に足を踏み入れてとどまるようメッセージを語らせました(13節)。次に起こったことは、紅海を渡った時と同じ奇跡です。ヨルダン川が分かれ、イスラエルの民は乾いた地を渡ったのです(ヨシ3:14〜17)!

打ち破りの神

Photo by WikiImages/Pixabay

最近、イスラエルにいるクリスチャンの指導者仲間が、神は「打ち破りの神」であることを思い起こさせてくれました。壮大な紅海とヨルダン川を渡った二つの奇跡を調べると、神がなされた打ち破り(ブレイクスルー)が見えてくるのです。両者の類似点は驚くほどで、民に対する神の誠実さは契約に基づく強固なものだと分かります。神の揺るぎない愛(ヘセド)は、変わることも絶えることもありません。

もう一つの類似点を見てみましょう。出エジプト記7章5節で神はモーセに、イスラエルの民をエジプトの束縛から解放する御業にはすべて目的があると告げられました。神の不思議がエジプトを襲う前に、神はモーセにこう言われました。「わたしが手をエジプトの上に伸ばし、イスラエルの子らを彼らのただ中から導き出すとき、エジプトは、わたしが主であることを知る」。つまり、これから起こることによって誰が真の神であるかを、エジプト人とイスラエルの民の両方にはっきり示すということです。

ファラオは、エジプト文明は秩序と光の文明だと信じていたことでしょう。しかし、エジプトは混乱と蛮行に覆われていました。エジプト文明とエジプト人は神々に縛られ、イスラエル人を搾取し、奴隷にし、その子どもたちを虐殺し、家族を破壊して、イスラエル人のアイデンティティーを消滅させようとしたのです。

しかし、神は力強い不思議を示してファラオの秩序の中に混乱(災い)を起こし、エジプト人とイスラエル人に真の秩序がどこから来るのかを思い起こさせました。異教徒のエジプト人にとって血の川やカエルの大群、押し寄せるぶよ、ぞっとする暗闇、長子の恐ろしい死は、世の終わりのように感じられたに違いありません。神はご自分の民を救い出すために、ファラオとエジプトの神々に宣戦布告をされました(出12:12、民33:4)。

出エジプト記でなされたすべてのことによって神は秩序を取り戻し、混沌を打ち破られました。このようにして神は栄光を受けられ、契約を守られたのです(創15:13〜14、エレ31:35〜37)! 素晴らしいことは、災いの結果、多くのエジプト人がイスラエルの民に加わったことです。彼らは、イスラエルの神はエジプトの無力な神々やファラオに勝る究極の力を持っておられ、帝国の荒廃を防ぐと確信しました(出12:36、38)。

エジプト人は、自国に下された不思議や裁きを通してイスラエルの主なる神と出会いました。同様に、ヨルダン川渡渉(としょう)の奇跡の目的は、国々が主の全能の御手を知り、イスラエルが神をおそれ尊ぶようになることです。「あなたがたの神、主が、あなたがたが渡り終えるまで、あなたがたのためにヨルダン川の水を涸らしてくださったからだ。このことは、あなたがたの神、主が葦の海になさったこと、すなわち、私たちが渡り終えるまで、私たちのためにその海を涸らしてくださったのと同じである。それは、地のあらゆる民が主の手が強いことを知るためであり、あなたがたがいつも、自分たちの神、主を恐れるためである」(ヨシ4:23〜24

神の力は光の破片のようにエジプトの闇を刺し通し、エジプト人は神の驚異的な不思議の前に震えました。同様に、光はヨルダン川を渡り、カナン人の住む混沌とした地は秩序と裁きをもたらす主の力強い御手を経験しました(創15:16)。イスラエルの民は、分かれた紅海を渡ってシナイに到着し、契約のことばであるトーラー(モーセ五書)を受け取ります。ヨシュアもまた、イスラエル人を導いて分かれたヨルダン川を通り、契約の地に導き入れました。いずれの場合もイスラエル人は混乱から救い出され、神の秩序と御心に引き入れられています。その結果、国々に影響が及ぶことになるのです。

これは聖書で繰り返されているテーマです(創12:3、イザ11:9〜12、19:18〜25、詩117)。神はイスラエルを国々に対する道しるべとして用いられ、諸国民は神の栄光と契約の本性を体験することになります。歴史の中でイスラエルが不従順な時期があったにもかかわらず、神がイスラエルと永遠の契約を結ばれたことは、神を呼び求めるすべての者にとって素晴らしい知らせです! これは変わることのない神の本性を確かなものにしています(詩105:8〜11、ロマ11:29)。

確かに、頑なな振る舞いには結果が伴います。この世で神と歩む時に伴う痛みは、心が弱っている人にはつらいこともあるでしょう。しかし、あわれみ深い神は御許に戻ってくるようイスラエルを招いておられます。神は、イスラエルに輝かしい御心を明示されるのと同時に、神の道に歩むよう呼び掛けておられるのです。聖書は、イスラエルと諸国の民が共に見る未来を説明しています。その時国々は、イスラエルと共に王を礼拝するためエルサレムに上ってきます(ゼカ8:23、14:16)。それはメシアの時代として描かれている、神の創造が頂点に達する時です(エゼ36:22〜38)。

イスラエルとの契約を守られる神は、あなたとの契約も守られます。神は人生から混乱を取り除き、すべてを神の秩序の下に置いてくださいます。荒れ狂う水を分け、あなたの足を乾いた地に置き、打ち破りを確かなものとしてくださるのです。

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