ティーチングレター

神が与える癒やし

TEXT:ピーター・ファスト(BFPゼラスツアー責任者)

ユダヤ人、クリスチャン両者が信じる、神の特質の一つに「癒やし」があります。このティーチング・レターでは、ベテスダの池の出来事を通して、神しか与え得ない、癒やしについて学んでいきましょう。

ベテスダの池の癒やし

ベテスダの池で、イエス・キリストは、ある男性を癒やしました(ヨハネの福音書5章)。この箇所で、イエスは羊の門を通ってエルサレムに入り、ベテスダの池へ来られました。ベテスダは、ヘブライ語で「恵みの家」を意味します。ヨハネは、ここには五つの回廊があって、そこに大勢の病人が横たわっていたと記しています。さらにとても興味深いことが書かれています。「彼らは、水が動くのを待っていた。それは、主の使いが時々この池に降りて来て、水を動かすのであるが、水が動かされたあとで最初に入った者は、どのような病気にかかっている者でも、いやされたからである。」(異本4節※日本語訳では欄外注を参照)。

この場所に、38年も病で苦しんでいる人が臥せっていました。もし、自分がこの男性のようであったら、どうでしょう。他の人々が次々と癒やされて行く中、彼は無視され、孤独でした。きっと彼は一かけらの愛も周りに存在していないかのように感じていたことでしょう。この惨めな男性の前に、ナザレから来た、奇跡の業を行うラビ(先生)、イエスが現れました。「よくなりたいか」と聞かれ、この男性は絶望のどん底からこう答えます。「主よ。私には、水がかき回されたとき、池の中に私を入れてくれる人がいません。行きかけると、もうほかの人が先に降りて行くのです。」(7節)

ここでちょっと立ち止まって考えてみましょう。いくつかの疑問が生まれます。この男性はなぜそこに横たわっていたのでしょう。天使が癒やしのために水をかき混ぜに来るとは、この場所はどんな所だったのでしょう。いったい、聖書のどこに天使が早い者勝ちで人を癒やした、と書かれている箇所があるでしょう。これらの問いに解答を得るためには、幾つかの歴史的事実を検証する必要があります。

ヘレニズムとベテスダの池

ベテスダの池の位置と、それが元々何のために利用されていたかについては、近年の考古学によって解明されてきました。そもそも日本語で「池」というと「自然の池」を想像しがちですが、ここはむしろ「人工のプール」です。ベテスダの池は紀元1世紀、ヘレニスト(ギリシア文化の影響を受けた人々)たちによって、「セラピス神」の神殿として用いられていました。この人工のプールも、異教の儀式や娯楽に用いられていました。

ヘレニズムというのは、ギリシア語のヘラス(ギリシャの古代名)から派生したことばで、ギリシア的ライフスタイルを指します。エミール・シューラーはヘレニズムを、「法律、司法、行政、芸術、科学、貿易、産業等、人々の日常からファッションに至るまで、ギリシア的精神や思想が影響すること」と定義しています。

当時のユダヤ人はヘレニズムに取り囲まれており、ギリシア文化の影響は非常に魅力的でした。ヘレニズムの影響は、イエスが生きた時代の、男女の名前や建築物、ヘロデ王による第二神殿の建築スタイルにも見ることができます。ヘレニズム的価値観は、ヘブライ的思想の対局にありました。人間や自然を崇拝すること、多神論主義などは、トーラーで教えられている、唯一の創造者なる神への信仰と真っ向から対立するものです(申6:4)。

ヘレニズムはまた、肉体崇拝や文字どおり快楽を崇拝することを含む、快楽主義を生み出しました。それは、病気や容姿が不器量であったりすることは良くないことという価値観をもたらしました。聖書はそう教えていません。快楽主義は人を外見で判断します。しかし、神は人をその心の内側にあるもので判断されます。

セラピス神-偽の神

ベテスダの池を発掘した時、考古学者はセラピス神の神殿を発見しました。では、セラピス神とは何なのでしょう。

セラピスとは、プトレマイオス1世(BC367―282)によって作り出された神です。プトレマイオス1世はエジプトに、ギリシア・マケドニア風の王国、プトレマイオス朝を建てました。エジプト風の動物と人間が組み合わさった神々は、ギリシア人に人気がなかったので、新しい神を創り出すことにしました。彼は、その神に最高の魅力を備えさせ、首都アレクサンドリアを支配させたいと願いました。この神に彼が与えた名が、セラピスだったのです。彼はアレクサンドリアに、巨大なセラピウム神殿を建立しました。

カルタゴで発掘された3世紀のセラピス像
PhotobyWikimedia

ベテスダの池で、このセラピスの神殿が発掘されたことから、セラピスの影響がエルサレムの町にまで届いていたことが分かります。発掘が進むにつれて、このプールの秘密が明らかになってきています。イエスの時代、プールの底には、水中に空気を送り込んで、水を動かしたり、泡をボコボコと出したりするような仕掛けのパイプが何本も設置されていました。セラピス神殿の祭司たちは毎朝、その日の賽銭(さいせん)を集めるために、池の準備を整えます。プールの周りには、「癒やされるために水のところへ来なさい」と呼び掛ける声を響かせる、空中のパイプが張り巡らされていました。もしかすると、これが、ヨハネ福音書に書かれた、あのエコヒイキをする天使の正体だったのかもしれません。

イエスはなぜセラピスの神殿に居たのか?

では、イエスはそこで何をしていたのでしょう。悪は、時に、あたかもそれが神からのものであるかのように見せ掛けようとします。おそらく、このプールには、空しい希望を抱かせたまま人々をとどめておくための、何らかの「癒やしの行為」が存在していたに違いありません。その癒やしが一時的であれ、長期間続くものであれ、つかの間の希望がありました。聖書を読むと、サタンでも神を模倣(もほう)し、限定的な力を発揮することがあります。このようなゆがんだ奇跡は、神の許しの中でサタンがヨブを試みた時や、パロの祭司たちがアロンを模倣し、自分たちの杖も蛇に変えることができたことなどに、はっきりと見て取ることができます(出エジ7:11)。

ベテスダの池の発掘現場
ヨハネの記述通りの場所に
プールが発見された
©Israelimages

イエスは、真の癒やしを行うために、あえてセラピス神殿へ入っていく選択をされました。ヨハネ5章には、誰かを癒やすために、入っていかれたイエスの強い意志が示されています。イエスは男性に向かい、「起きて、寝床を取り上げ、歩きなさい」と言いました。そしてそこに居たすべての人が見守る中で、男性は癒やされたのです。

癒やされた男性はどんな人物だったのでしょう。続く数節には、彼が何者かを示す、二つのことが記されています。第一に、彼は、「安息日を破ったのではないか」とイエスを裁くユダヤ人たちの質問に答えています。彼らの問いは、この男性がユダヤ人であったことを表しています。もしも彼が異邦人であったなら、彼らはそんなことは気に掛けなかったでしょう。

次に、癒やされた男性は、神殿へ行きます。おそらく、38年もの間、神殿礼拝への参加が認めてもらえなかった後で、ユダヤ教の会員として復帰させてもらうために、行ったのかもしれません。または、セラピスに癒やしを求めた罪を悔い改め、祈りに行ったのかもしれません。神をほめたたえる感謝の捧げものをしに行ったのかもしれません。

男性は神殿の中でイエスと再び会います。このことが、男性がユダヤ人であったことを決定的にしています。エルサレムの神殿の丘周辺の発掘では、数多くの碑文が発見されています。これらギリシア語で書かれた碑文には、非ユダヤ人が神殿の内庭へと入り込むことを防ぐための、警告が刻まれています。事実、異邦人が神殿に近付ける限界は、外庭まででした。従って、イエスが神殿の中で彼に声を掛けられたということは、イエスが癒やされたこの男性がユダヤ人だったという証拠になります。

神が与える真の癒やし

最後に残った疑問は、「なぜユダヤ人が偶像の神に癒やしを求めたのか」ということではないでしょうか。彼はなぜ、ニセの神に頼ったのでしょう。これは、謎です。けれども、最初にイエスから語り掛けられた後の、彼の応答がこの問いの答えに近付くヒントかもしれません。私たちは、男性が、「自分は単に人々からだけでなく神からまでも見捨てられた」と感じていたことを推し量ることができます。彼はもう何年も自分が無価値な、見捨てられた存在だと感じてきました。それまで何度も、神に助けを叫び求めたのに何の答えも得られない、絶望感で張り裂けそうな時があったに違いありません。多分、彼が最初にイエスに答えた、自分が無視されている気持ちを訴えた言葉は、彼が神に対して抱いていた苦々しさを映し出していたのではないでしょうか。それでも、神を信じたいという願いは、強く残っていたに違いありません。このことは、彼が癒やされた途端に、神を礼拝するために神殿へ行ったことからも明らかです。彼は、癒やしがどこから来たのかを理解したのです。

ベテスダの池にきたイエス・キリスト
byMurillo/Wikipaintings.org

このような、偶像の支配する場所で、イエスと、神の力が、セラピスに立ち向かいました。イスラエルの神が、単に病からの完全な解放のみならず、人格的、霊的な癒やしをも行われたのです。男性は、根本的に変えられ、社会における彼の地位が回復されました。彼の神への信仰そのものも回復されました。神の主権的御旨とご性質は、永遠に、真の癒やしの源であり続けます。神は、その日、ベテスダの池という聖書の教えに反する場所に、真の回復の息吹を吹き掛けられたのです。

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