ティーチングレター

アマレク -前編-

TEXT: シェリル・ハウアー [BFP国際開発ディレクター]

イスラエルは歴史を通してアマレク人に繰り返し、苦しめられました。その頂点とも言うべき出来事がエステル記にある、アマレク人の子孫ハマンによるユダヤ民族絶滅計画です。今回のティーチングレターでは、アマレク人とは誰を象徴しているのか。また、彼らの敵対心がどこから来ているのか、その根底を学んでまいりましょう。

BFP(ブリッジス・フォー・ピース)は、クリスチャンとユダヤ人の間に架け橋を築くために奉仕しています。そのためには、ユダヤ人を知る必要があります。聖書の民である彼らがどのように聖書を読み、解釈し、彼らの教師であるラビたちが何を教えているかを知ることは、ユダヤ人を理解する一つの方法です。そしてそれは私たちのヘブル的聖書理解の助けにもなります。また、ユダヤ人と私たちクリスチャンの歴史と事実を知ることは、双方の立場を認識し、聖書を土台として彼らを愛し、御心を行うことにつながります。

イスラエルは小さな国家ですが、長い歴史の中で絶えず大きな注目を浴びてきました。天然資源がほとんど無いにもかかわらず、エルサレムは27回以上にもわたって征服されてきました。何千年もの間、この国は戦いの真中にあり、他国の兵士や不在地主によって占領されてきました。古代エジプトからローマ帝国、ペルシャ、オスマントルコに至るまで、イスラエルは絶えず攻撃を受けてきました。さらに、イスラエルを追われ世界中に離散した後も、ユダヤ人は歴史の中で繰り返し厳しい迫害を受けてきました。今日でも、反ユダヤ主義は世界の多くの地域で最悪のレベルに達しています。そして今も、イスラエル国家は四方から迫る脅威にさらされています。

ユダヤ人絶滅を企てた
アドルフ・ヒットラー

もし、ユダヤ人に、イスラエルの最大の敵は誰であったかを尋ねるなら、さまざまな回答が出てくることでしょう。間違いなく筆頭に挙がるのがヒットラーです。現代であれば、「イスラエルを消し去る」と宣言しているイランの大統領アフマディネジャドやガザのテロ組織ハマスが挙がるでしょう。聖書時代にはハマンやセナケリブ(アッシリア王〔第II列王記18-19章〕)がいました。驚くべき事に、イスラエルが過去の歴史を通して向き合った敵と、現代におけるイスラエルの敵は、その根底において同一の性質を持っています。それは、「アマレクの霊」です。

なぜアマレクか?

アマレク人は、カナンの土地の南部に居住する遊牧民で、しばしばネゲブ(イスラエル南部の地)の牧草地を占拠していました。彼らの指導者、アマレクは、エサウの孫でエリファズの子でした。創世記25章29〜34節に、エサウが弟ヤコブに長子の権利を売った有名な物語があります。長子としてのエサウへの遺産には、祖父アブラハムから受け継ぐ祝福のすべてが含まれていました。本来、この遺産はヤコブではなく、長子であるエサウが受け継ぐはずでした。しかし、エサウは一杯のレンズ豆のためにその祝福を譲渡してしまいました。この出来事を、ユダヤ人はどのようにとらえているのでしょうか。ラビは、「エサウは少しばかり空腹だったかもしれないが、病気でもなく、ひどく飢えていたわけでもなかった。彼は、裕福な家庭で育った健康な青年で、必要はすべて満たされていた。このような、何でもそろっている恵まれた環境で育ったエサウは、長子の権利を軽視した。こうしたエサウの軽率さは、神を恐れず、物事の重要性を平気で無視する無神経さを表している。」と指摘します。エサウは父親の教えや民族の伝統を無視し、将来を考慮することもしませんでした。にもかかわらず、彼は自身の損失のことで弟を非難し、恨み、殺そうとまで決心しました。そして、ヤコブとその子孫に対する憎しみはエサウから、孫のアマレクに受け継がれたとラビは教えています。

モーセの腕を支えるアロンとフル
(ジョン・エヴァレット・ミレー画)

出エジプト記17章8〜16節には、イスラエルと宿敵アマレクとの初めての交戦が記されています。エジプトを脱出したイスラエルが荒野を放浪しているとき、攻撃を受けるような挑発は何もしていないにもかかわらず、レフィディムでアマレク人に攻撃されました。この戦いの中で、モーセが手を上げているときはイスラエルが優勢となり、手を下ろすと、アマレクが優勢となりました。アロンとフルが日没までモーセの腕を支え、結果としてイスラエルは勝利を収めます。このことは、この戦いが単なる部族間の衝突ではなく、神が戦われた戦いであったことを示しています。「主はモーセに仰せられた。『このことを記録として、書き物に書きしるし、ヨシュアに読んで聞かせよ。わたしはアマレクの記憶を天の下から完全に消し去ってしまう。』」(出エジ17:14) また16節では、「主は代々にわたってアマレクと戦われる」とあります。

この事件は、申命記25章17〜19節でも詳しく語られています。「あなたがたがエジプトから出て、その道中で、アマレクがあなたにした事を忘れないこと。彼は、神を恐れることなく、道であなたを襲い、あなたが疲れて弱っているときに、あなたのうしろの落後者をみな、切り倒したのである。あなたの神、主が相続地としてあなたに与えて所有させようとしておられる地で、あなたの神、主が、周囲のすべての敵からあなたを解放して、休息を与えられるようになったときには、あなたはアマレクの記憶を天の下から消し去らなければならない。これを忘れてはならない。」ここで主はアマレクのしたことは、集団から外れた人々、疲れ、弱っている者たちを攻撃対象とした悪意あるものだと言っています。そして、民にアマレクとの出会いを覚えていなさいと命じています。また、アマレクが神を恐れない、祖父エサウの憎悪の性質を受け継いでいたことを示しています。イスラエルへの攻撃は、財産、地境、水源のためではありませんでした。それは、ヤコブの子孫に対する全くの憎悪の結果でした。それゆえ神は言われます。「あなたはアマレクの記憶を天の下から消し去らなければならない。これを忘れてはならない。」(申命25:19)

アマレクの子孫は、ユダヤ民族の敵の原型となりました。彼らの存在そのものが、神を崇め、契約のうちに生きることを教えるトーラー(創世記〜申命記)と常に逆行します。タルムード(ラビの教義注解書)には、アマレクの種である憎悪と悪(罪)の本質が永遠に破壊されるまでは、神の御座は決して完全に建て上げられないとあります。ラビは、アマレクの持つこうした性質は世界の悪の本質であると明言しています。

エステル
(ジョン・エヴァレット・ミレー画)

歴史を通してのアマレク

旧約聖書は、イスラエルとアマレクの間の衝突について詳しく記しています。アマレク人が勝利し、神の民を虐殺し、略奪したこともありました。彼らは弱まることのない憎悪を保ち、イスラエルに敵対する者との同盟を受け入れました。モアブ人、アモン人、ケニ人は、ヤコブの子孫を滅ぼそうとするアマレクの試みに加担する人たちでした。しかし、神は、イスラエルに宿敵アマレクとの戦いで勝利する恵みを施しました。サウルはアマレクの王アガグを捕らえて、剣で彼の民を滅ぼしました。

その後しばらくして、第 I サムエル記30章では、ダビデが彼らと戦いました。ここで再びアマレク人が姿を現します。彼らはダビデが戦いで留守にしている間に攻撃し、女子どもを略奪しました。このとき、ダビデは、奪われたものをすべて奪還し、アマレク人の多くを滅ぼしました。しかし一部の者は逃げました。第I歴代誌4章42〜43節では、ヒゼキヤの時代、シメオン族の500人が、アマレク人の残っていた者を聖絶し、セイル山に住み着いたとあります。しかし、これは決してアマレク人を全員消し去ったという意味ではありませんでした。

エステル記3章では、さらに有名なアマレクの子孫が登場します。ここでハマンは、アマレクの王アガグの子孫と紹介されています。ユダヤ民族を全滅させたいというハマンの願望は、アマレク人に伝わる伝統的な考え方に他ならないものでした。その伝統は、時代を経てアマレク人の祖先から、多くのイスラエルの敵へと伝わっていきました。

霊的適用

ひとつの霊的適用が、申命記25章18節の「彼は道であなたと出会い」(新共同訳)という箇所から見出せます。ヘブライ語で「出会う」という単語には、「偶然」という意味が含まれています。これの意味するところは、アマレク人の人生の哲学が、設計や摂理などではなく、運と巡り合わせだけで成り立っているからとラビは解釈しています。秩序のない、その時の感情や損得勘定で意思決定をしていく、その場限りの生き方という意味です。そういう人は「神を恐れることなく」と、みことばに書かれている通り、神の秩序と計画を知ろうとしません。まさにアマレクの霊とは、悪霊、あるいはサタン自身を象徴しています。

世界は目的と意味を持ち、すべての人は神のかたちに似せて造られました。この聖書の基盤から、「神は唯一、全ての人が平等であること、教育は全ての人に」といった概念を、ユダヤ人は世界に表わしました。これはイザヤ42章6節で「国々の光」となると預言されていることの一つの成就です。ヤコブは、神が世界を動かし、道徳にも神の絶対的基準があると信じていました。一方、エサウの信念は自分中心の道徳であって目的や計画性のないものでした。全能の神の下、ユダヤ人は秩序を保ち、弱者に配慮するという原則に立っていました。アマレクの精神はその反対で、弱って後に残されるような人々を攻撃し、混乱へと引き入れようとします。

前半ではアマレクの持つ特質について学びました。後半では、アマレクの霊が現代において及ぼしている影響と、私たちクリスチャンのとるべき正しい応答を学びます。

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