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エズラ、知られざる信仰のヒーロー -前編-

TEXT:シェリル・ハウアー(BFP国際開発部長)

ユダヤ人の間で、聖書史において最も偉大な人物の一人とされるエズラ。彼の業績を今一度整理し、信仰の歩みを追います。

Eddelene Marais/bridgesforpeace.com

クリスチャンに、「タナハ(創世記からマラキ書)の偉人は誰だと思いますか」と聞くなら、モーセ、ダビデ、アブラハム、預言者イザヤやエレミヤといった名前が挙がるのではないでしょうか。しかし、ここにエズラを加える人はほとんどいません。エズラ記には、彼の指導力や神とトーラー(創世記から申命記)への愛がつづられているにもかかわらず、恐らくエズラは「偉人」リストに挙がってこないのです。

しかし、ユダヤ人が聖書の偉人と言う時、ほとんどの場合、エズラの名前が真っ先に挙げられます。ユダヤ人の歴史の中で、エズラ以上に重要な人物はダビデ王だけだと言われているほどです。さらにユダヤ教では、もし神がモーセを通してユダヤ人にトーラーを授与できなかったなら、エズラを通して与えただろうと言われています。

では、エズラとは何者だったのでしょうか。そして、神の御国にどのような貢献をしたのでアブラハムの子孫たちにこれほど尊敬をされているのでしょうか。エズラの生涯とはどのようなものだったのでしょう。エズラがリーダーとして見せた勇気、エズラの記した書巻、エズラの主と主のみことばに対する揺るぎない情熱的な献身から、私たちは何を学ぶことができるでしょうか。

捕囚の生活

エズラをもっとよく知るために、まず、バビロン捕囚を見てみましょう。BC597年、ネブカデネザル王による最初の離散。BC586年、エルサレム神殿の崩壊。BC538年クロス王がエルサレムへの帰還許可を命ずるまでの間、イスラエルの民は祖国から切り離されて生活していました。

イラクで出土したくさび形文字の石版や、最近ではサダム・フセインによって収集された記録文書など、ここ数世紀の考古学的発見によって、彼らの捕囚生活に光が当てられるようになりました。商取引や土地の売買、そして税金の記録をも含む捕囚の民の暮らしの全容が明らかになりつつあります。発掘品の中には「ユダヤ王エホヤキンと五人の息子」への油の支給の記録がありますが、これは最初の離散からほんの5年後の出来事です。

他の文書には何十ものユダヤ人の名前のほかに、「ユダの町」という共同体の名前も記録されていました。この「町」はエルサレムを指しています。積極的にユダヤ人同化政策を推し進めたアッシリア王とは違って、バビロンはユダヤ人に干渉しない傍観主義的政策を採りました。ユダヤ人はユダヤ人共同体で生活し、伝統に従い、父祖たちの神に栄誉を帰することが許されました。

エズラ記2章1節から読み進めていくと、捕囚以前エルサレム神殿と結び付いていた部族が明らかにされ、祭司、歌うたい、門衛、宮に仕えるしもべが確認されています。また、それ以外の人々も部族、出身地によって分けられています。ユダヤ人の歴史と伝統が忘れ去られていなかったことは明らかです。それは捕囚の年月を経ても失われることなく意味を持ち続けました。

バビロンの川のほとり

神殿が破壊される前のイスラエルは、政治的混乱や社会の激変にかかわらず、神の臨在の中で営まれてきました。神はご自分の名をとこしえに置くためにシオンを住みかとして選ばれ、永遠に変わらない愛のために、ご自分の民でありご自分の地であるイスラエルを決して見捨てることはないと何度も約束してこられました。エルサレムで生活するということは、美しい神殿とそこから流れる香の香りや霊的魅力に常に触れることができるということです。シオンは神の御住まいであり、神との関係の中で生活が展開する場所だったのです。ですから、どれほど考古学的証拠の助けを借りたとしても、散らされ捕囚となった民が感じた痛みと喪失感は決して分からないのです。民はそれまで当然のものとして受け取り、時には拒絶さえしたことさえある神の臨在と守りをすべて失ったのです。詩篇137篇から捕囚の民の魂の苦悶を垣間見ることができます。

クロスの円柱。同時代のくさび形文字による文書は
正式にクロスをバビロニアの王と宣言している。Photo by wikipedia

「バビロンの川のほとり、そこで、私たちはすわり、シオンを思い出して泣いた。…エルサレムよ。もしも、私がおまえを忘れたら、私の右手がその巧みさを忘れるように。もしも、私がおまえを思い出さず、私がエルサレムを最上の喜びにもまさってたたえないなら、私の舌が上あごについてしまうように。」(詩137:1-6)

自分たちの罪の結果

聖なる都エルサレムが徹底的に破壊され、神殿が壊され、人々が鎖で引かれて行きました。言葉にはできない恐怖に加え、イスラエルの民は、それが完全に自己責任であることを悟って打ちのめされました。民はバビロンに連れて行かれた後、ラビや賢者たちから、「捕囚」という罪の結果と責任を突き付けられました。民は主を裏切り、神の預言者たちをさげすみ、神の命令に従わずに他の神々を受け入れました。

しかし、罪責感と絶望の中にいた民に、主は解放のメッセージを送ってくださいました。もし彼らが父祖たちの神に立ち返るなら、神は聞いてくださると。預言者イザヤ、エレミヤ、エゼキエルは捕囚の民が再び集められ、心がきよめられ、国が再建されるという天からのことばを語ったのです。

新しいユダヤ教

神殿を失い捕囚となった民は、立ち返って神に心を向け、将来約束されている解放を神に叫び求めました。約束を待っている数十年の間、イスラエルが民族として消滅してしまわないために、モーセの律法の礎を振り返り、神の契約にしっかりと立つことが大切でした。しかし、ユダヤとエルサレムの記憶が色あせるにしたがって、神への熱意もおぼろげになり始めたのです。

バビロンでユダの総督だったゼルバベルは一時期、捕囚の民に神の約束を思い起こさせて彼らの心を奮い立たせることができました。ゼルバベルは一万人のユダヤ人と共にエルサレムに向かって出発し、厳しい困難の中で神殿の再建を始めました。しかし、結局絶え間ない反対に遭い、職務を完遂することができませんでした。「こうして、エルサレムにある神の宮の工事は中止され、ペルシヤの王ダリヨスの治世の第二年まで中止された。」(エズラ4:24)

神はユダヤ民族への解放のメッセンジャーとして、特別な人を必要としていました。それは情熱的で高潔というだけでなく、民の心をとらえるカリスマ性を持ち、バビロンのユダヤ人に、主への愛と仕える心を呼び起こす知恵のある人でなくてはなりませんでした。それがエズラだったのです。

エズラの父セラヤと母親はバビロンに移されていたので、エズラは捕囚の地で生まれました。エズラはエルアザル、ピネハス、ツァドク、アロンといった祭司の家系の一員で、ユダの王ヨシヤの時代に大祭司だったヒルキヤのひ孫です。エズラの一族には、トーラーの知識とモーセから伝えられた父祖たちの伝統が深く浸透していました。エズラは神を畏(おそ)れ、愛し、義を追い求め、困難な離散生活の中でも忠実であり続けるよう教育されたことでしょう。また、エズラは自分の教師だったネリヤの子バルクから深く影響を受けました。バルクは書記で、預言者エレミヤの助手を務めていました。バルクは信じられないほどの経験と学識を持った人で、聖なる神に対するエレミヤの情熱から影響を受けていました。

エズラは神のみことばを情熱的に愛し、単にみことばの研究に打ち込んだだけでなく、他の人にも同じようにするよう教えたのです。彼はトーラーから迷い出るなら、ユダヤ民族が消滅してしまうことを知っていました。ですからエズラは、全力でみことばの回復に尽くしたのです。

エズラは、祭司、書記、そして宗教的指導者として当時のユダヤ教に大きな影響を与えたにとどまらず、歴史的にユダヤ教の姿を変えました。神とみことばへの愛を復活させるためにエズラは、全地域の離散したユダヤ人共同体に、イェシバ(トーラー研究専門学校)制度の確立を監督しました。エズラはみことばを祭司の独占から解き放ち、人々の手と心の中に書き写した者として歴史に名を残すことになりました。

エズラは、また、シナゴーグの考案者として高く評価されています。仕事で書記をしていたエズラは、今日のヘブライ文書で標準的な活字体文字を作った人物とも言われています。エズラはバビロン中で最も尊敬されていた学者でした。最終的なトーラー編集の責任を持つと共に、今日でも使われているトーラーの年間通読計画を作りました。さらに、120人の長老と賢者からなる大集会の創始者であり指導者でもあるとされています。そのメンバーにはネヘミヤ、ダニエル、ハガイ、ゼカリヤ、マラキも含まれていました。この大集会は第二神殿時代の始まった時期、ユダヤ人の究極的な宗教的権威を制定し、サンヘドリンの先駆けとなりました。

後編では、エズラ記から、現代にも通じるみことばへの愛と献身を探ります

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