ホーム知る・学ぶティーチングレターバックナンバー > 神の選び ~その代償~ -前編-

ティーチングレター

神の選び ~その代償~ -前編-

クリス・エデン/南アフリカ ナショナル・ディレクター

南アフリカのケープタウンにあるテーブル山の坂道に、マウントネルソンホテルという壮大な建造物があります。それは、南アフリカがイギリスの植民地であった時代の名残です。子どものころ、このホテルの広く薄暗いロビーに入ったときの驚きを今も覚えています。人々は声を潜めてお喋りをし、厚いパイルカーペットの上を音もなく歩いていました。ロビーの最も目を引く場所に、スポットライトが当てられた展示用キャビネットが置かれていました。それは、南アフリカで最も美しいダイヤモンドの宣伝でした。周りの薄暗さとの対比やキャビネットの位置により、その高価で貴重な宝石は、多くの人々の目を奪っていました。それはロビーの中で、まるで〝イスラエル〝のように輝きを放っていました。

古代世界の交易路

神は意図的に、イスラエルを神のショーケースとされました。古代世界の南北に通じる交易路は「海の道」と呼ばれ、東西をつなぐ交易路は「王の道」と呼ばれていました。この二つのルートはいずれもイスラエルを通らなければなりません。アジア、アフリカ、ヨーロッパの3大陸の接点であるイスラエルは、隊商や旅人たちの道程、そして兵士らがたどる戦地への道や帰路であるという重要な意味をもっていました。異教の神々を奉るためにさまざまな慣習を行う周辺諸国の中で、神そして人々との関係を正しくもつ生き方を導くトーラー(創世記から申命記まで)を通し、神はご自身を啓示されました。それゆえ、真の神のものであるイスラエルという国が、際立った存在となっていたのです。

神と、神の選ばれた民族イスラエルとの関係は、どのようなものだったのでしょうか。イスラエルが神に従順であれば作物に雨が与えられ、侵略者からも守られました。周辺諸国はイスラエルの繁栄を見て、彼らがいかに神に祝福されているかを知りました。同様に、彼らの不従順、不信仰を通して、飢饉と敗北が起こったことも他国の人々は目撃したのです。

なぜ神はこのようにされたのでしょう。それは、イスラエル民族を用いて人間の罪性を明らかにすると共に、神のきよいご性質を表し示すためなのです。それがトーラーに記されていることです。しかし、恵みに満ちたあわれみ深い神は、このモーセ契約の前に、一方的な無条件契約であるアブラハム契約をすでに与えていました。

「主はアブラムに仰せられた。
『あなたは、あなたの生まれ故郷、あなたの父の家を出て、わたしが示す地へ行きなさい。そうすれば、わたしはあなたを大いなる国民とし、あなたを祝福し、あなたの名を大いなるものとしよう。あなたの名は祝福となる。あなたを祝福する者をわたしは祝福し、あなたをのろう者をわたしはのろう。地上のすべての民族は、あなたによって祝福される。』」(創世12・1-3)

「わたしは確かにあなたを大いに祝福し、あなたの子孫を、空の星、海辺の砂のように数多く増し加えよう。そしてあなたの子孫は、その敵の門を勝ち取るであろう。」(創世22・17)

イスラエルの歴史において、イスラエルに住む民とディアスポラ(イスラエル国外に離散したユダヤ人)の民は、他国との軍事的、政治的衝突から生き残るために、死に物狂いの努力をしてきました。ある社会学者は、幾度となくユダヤ人の上に降り掛かってきた民族抹殺の危機も含め、彼らが受けてきたすべての迫害がなかったら、今日、世界のユダヤ人人口は2億を上回ったかもしれないと概算しています。

しかし現実には、今日の世界におけるユダヤ人人口はわずか1千5百-1千7百万人に過ぎません。一度滅んだ国が、イスラエル民族国家として樹立し再興されているというこの事実は、神のアブラハムとの無条件契約に基づくものに他なりません。神から選ばれたイスラエル民族には、諸国の民とは違う独自の役割があるのです。

  • 人類に神の救いを知らせる。
  • 神が語られたみことばを記録し、保存する。
  • 神とイスラエル人との関わりを通し、神のご性質を明らかにする。
  • 人間の関心をメシアに合わせる。

これら4つの事柄は、神がイスラエルに与えた大きな役割です。

神の計画を阻止しようとする者は、神の御心を表す民であるイスラエルへ敵対するという形を表します。そして、神の計画に賛同する者は、イスラエルに対する協力という形を表します。聖書の土台に立って神に協力し、イスラエルを祝福する人々は、神からの恩恵を受け、神の計画を阻止しようとする人々は、神の怒りを受けるでしょう。神がアブラムといけにえの血を流す契約を交わされたとき、イスラエルの背きに対する不吉な警告がありました。

「彼は申し上げた。『神、主よ。それが私の所有であることを、どのようにして知ることができましょうか。』すると彼に仰せられた。『わたしのところに、 三歳の雌牛と、三歳の雌やぎと、三歳の雄羊と、山鳩とそのひなを持って来なさい。』彼はそれら全部を持って来て、それらを真っ二つに切り裂き、その半分を互いに向かい合わせにした。しかし、鳥は切り裂かなかった。猛禽がその死体の上に降りて来たので、アブラムはそれらを追い払った。」(創世15・8-11)

「猛禽」は、神の人類救済計画に敵対する霊的象徴としてとらえられています。神に敵対する邪悪な者は、アブラハム契約の調印を妨害することに失敗しました。この時から、彼らは神の無条件契約の成就を阻止しようと、歴史の中で策略を企てては実践してきたのです。ここで唯一可能な手段が、アブラハムの子孫を抹殺することでした。このような暗やみの力が働く中、イスラエル民族の歴史は彼らが約束の地に住んでいるか否か、ディアスポラのユダヤ人であるか否かにかかわらず、ただ、生きていくこと、生存権を守ること自体に多大な努力とあらゆる資源を費やしてきたのです。

現在、イスラエル国防軍は世界第4位の大きさとなりました。国家誕生からの短い近代史において、現実の脅威から国を防衛するために、国民は男女を問わず繰り返し戦闘に招集されています。もう一つのユダヤ人の戦いは、ユダヤ人がユダヤ人であることを妨害されたり、ディアスポラにおいて離散先の社会に同化させられたりする、目には見えない脅威との戦いでした。

物理的にイスラエルを破壊しようとする試み

イスラエルが民族として神から与えられている召しの成就を妨害しようとする二つの企てがあります。一つは、物理的にイスラエルを滅ぼす試み。二つ目は、イスラエル民族の独自性を取り除こうとする試みです。まず、一つ目の「物理的」なことから見ていきましょう。

2005年8月、イランの大統領に選出されたマフムード・アフマディネジャドは、「イスラエルを地図から抹消する」と繰り返し宣言し、公約としました。それは、イランの軍事能力開発によって、よりいっそう悪意ある現実的な脅威となりました。イスラエルの歴史の中には、彼のような考えをもつ先駆者が幾人かいました。

パロ

神の約束通り、イスラエル民族はエジプトのゴシェンの地で、「おびただしくふえ、すこぶる強くなり」ました。(出エジ1・7)。パロは脅威を感じ、彼 らを苦役で苦しめ、圧政の下に置きました。神は、指導者として立てたモーセを通し、ご自身の御旨を幾度もパロに告げます。しかし、パロは聞き入れませんでした。

このようなエジプト人に、神は疫病を送り、さらに厳しい刑罰を与えます。10番目の災いとして、エジプトの地のすべての初子を打たれたのです。神はご自身の使いを送り、民をエジプトから解放し、約束の地へ連れ戻します。パロは、イスラエルの民を完全に打ち滅ぼそうとしてエジプト軍を追い付かせますが、神の御業により、彼らは海の泡となって消えていきました。このようにして、神は、神の目的のために置かれたイスラエル民族を救われたのです。

ハマン

エステル記(紀元前462年)には、エチオピアからインドまでの広大なペルシャ帝国を治めたアハシュエロス王の下、その家臣であるハマンが強大な権力を奮うようになったとあります。当時、イスラエル人のほとんどが、二度にわたる捕囚により、彼らの約束の地からこの領土の中に移され住んでいました。

ハマンは自分に対し、人々がひざをかがめひれ伏すという、帝国での自分の高い地位を気に入っていました。ところが、決して彼に服従しない一人の男性がいました。彼はユダヤ人であり、王家とのつながりをもつモルデカイでした。結果、ハマンはモルデカイに激怒し、彼だけではなく国内すべてのユダヤ人を滅ぼす計画を企てたのです。

しかし、モルデカイの知恵と王妃エステルの勇気によって、物理的にイスラエルを壊滅させようとするハマンの陰謀は回避されました。悪しきハマンの手を逃れたイスラエルの奇跡的な救いの喜びは、毎年祝われる〝プリムの祭り〝に表されています。祭りの日、子どもたちは小さなモルデカイ、エステル、ハマンなど、思い思いに扮します。そして、シナゴーグ(ユダヤ教の会堂)ではエステル記が朗読されますが、このとき、ハマンの名前が読まれるたびにブーイングが起こり、非常に騒がしくなります。

ヒットラー

ヒットラーは純粋なアーリア国を再建するという夢を抱きました。その実現のため、ユダヤ人とドイツ人以外の人々から市民権を奪い去り、彼らに嫌がらせをしました。ドイツ国内での生活が困難になるように画策し、必然的に他の場所や国へ出て行かざるを得なくなるように仕向けたのです。ドイツのプロパガンダは、「ユダヤ人は、われわれの不幸の元凶だ!」という恐るべきものであり、ユダヤ人を悪魔、悪霊として容赦なく描きました。

ヒットラーは横暴な法律を成立させ、あらゆる面でユダヤ人の生活に規制、制限を加えていきました。こうして、ユダヤ人は社会から隔離されていきました。成人は専門職に就くことや、官庁に就職することが禁止され、子どもたちは、公立学校で学ぶことを禁止されました。このようなリストは果てしなく続き、ユダヤ人は迫害されていきました。そのため、入国を許可してくれる国を探し出した多くのユダヤ人はドイツを去っていきました。

ユダヤ人の人口が多い国々では、「ユダヤ人問題」への「最終解決」が考案されました。それは、ヨーロッパ全土における組織的なユダヤ人の虐殺でした。ヒットラーの驚くほど邪悪な計画は、600万人のユダヤ人の命を奪いました。ドイツ軍は中東までの征服をもくろんでいましたが、連合軍によりドイツは敗北します。このことによってのみ、ヨーロッパと中東のユダヤ人の絶滅が阻止されたのです。

2006年夏、イランのアフマディネジャド大統領は、「イスラエルを地図上から消滅させる」と幾度も公言しました。このような脅威の中、テロ組織のヒズボラがミサイルの集中砲火をイスラエルに浴びせたことは不思議ではありません。

ちょうどそのころ、多くのクリスチャンが祈りとして捧げ、またユダヤ人が祈り、読んだみことばが詩篇83篇でした。

「神よ。沈黙を続けないでください。黙っていないでください。神よ。じっとしていないでください。今、あなたの敵どもが立ち騒ぎ、あなたを憎む者どもが頭をもたげています。彼らは、あなたの民に対して悪賢いはかりごとを巡らし、あなたのかくまわれる者たちに悪だくみをしています。彼らは言っています。『さあ、彼らの国を消し去って、イスラエルの名がもはや覚えられないようにしよう。』」(1-4節)

次号の後編では、物理的にではなく、「イスラエルの独自性を取り去る」という方法でイスラエルを滅ぼそうとする、過去と現在における動きを検証していきましょう。

記事の先頭に戻る

ページトップへ戻る

特定非営利活動法人
B.F.P.Japan (ブリッジス・フォー・ピース)

Tel 03-5969-9656(平日10時~17時)
Fax 03-5969-9657

B.F.P. Global
イスラエル
アメリカ合衆国
カナダ
イギリス&ヨーロッパ
南アフリカ共和国
日本
韓国
ニュージーランド
オーストラリア

Copyright 1996- © Bridges For Peace Japan. All Rights Reserved.