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停戦から17日。イスラエルは南レバノンから撤退しましたが、ヒズボラへの武器流入防止のため、シリアとレバノンを結ぶ主要幹線道路の封鎖を続けています。中東歴訪中の国連アナン事務総長はイスラエルに封鎖解除を求めましたが、イスラエルは交代のUNIFIL(国連レバノン駐留軍)の展開が終わっていないとして事務総長の要請を拒否しました。
30日、イランの副首相がベイルートを訪問し、レバノン政府と復興支援策を協議しました。イランはヒズボラを通じてすでに莫大な資金援助を始めています。イスラエルはレバノンとの和平を模索していますが、レバノンのシヌエラ首相は、イスラエルとは交渉しないと明言しました。
ガザの状況が悪化しています。シン・ベト治安当局によると、イスラエル国境に次々に侵入用のトンネルが掘られ、武器が急速に運び込まれていると指摘。ガザ内部でもスラム化が進んでおり、3年以内に今回のレバノンとの戦いと同様の戦争になると警告しています。
神の山はバシャンの山。
峰々の連なる山はバシャンの山。(ゴラン高原)
峰々の連なる山々。なぜ、おまえたちは神がその住まいとして望まれた
あの山を、ねたみ見るのか。
まことに、主はとこしえに住まわれる。(詩篇68:15-16)
イスラエルが南レバノンから撤退して17日になります。代わって駐留するUNIFIL(国連の多国籍レバノン駐留軍)は、15,000人兵力を目標に各国が徐々に兵士の派遣を始めています。
派兵は、EU(ヨーロッパ連合)7,000人、ドイツ1,000人、フランス2,000人(200人から段階的に増やしていく予定)、イタリア2,500人など。
この他、マレーシア、インドネシア、バングラデッシュが1,000人の派兵を申し入れていますが、イスラエルはこれらのアジア・イスラム教国の派兵に難色を示しています。イスラエルの存在を認めていない国々だからです。
代わりにイスラエルは、EU加盟国で唯一のイスラム教国であるトルコの参加を希望しています。
イスラエル軍は現在、シリア、イランからヒズボラへの武器搬入を防止するため、レバノンとシリアを結ぶ幹線道路などの封鎖を続けています。レバノンでは23日から、国連のアナン事務総長が現地視察をおこなっていますが、アナン氏は、幹線道路封鎖は、レバノン住民の経済復興の障害になるとして、イスラエルに封鎖解除を求めました。
しかし、イスラエルは、UNIFILが編成を完成させ、レバノンとシリアの国境を警備する準備ができるまで封鎖解除はしないとアナン氏の要請を拒否しました。一方シリアは、レバノン軍ではなく、UNIFILが国境警備につくことは、レバノンとシリアとの信頼関係を壊すとして反対しています(レバノン軍とヒズボラは協力関係にあるため、国境警備についてもヒズボラへの武器搬入を阻止するとは考えられない)。
レバノンとシリア国境に位置するところには「シェバア農地」と呼ばれる地域があります。ゴラン高原の一部ですが、この地域は大変複雑な政治背景を持つ地域です。
この地域について、イスラエルは「1967年六日戦争以来、イスラエルの土地」と主張して国防軍を今も駐留させています。シリアは「シリア領なのにイスラエルに占領されている土地」と主張しています。
一方レバノンも「もともとレバノンの土地」と主張し、ヒズボラと協力して、「シェバア農地」に駐留しているイスラエル軍を攻撃し続けてきました。「シェバア農地」は、いわばトリプルブッキングの状態といえます。
ヒズボラのナスララ党首はレバノンのテレビ・インタビューに次のように答えました。
「イスラエル兵誘拐が、ここまで大規模な戦争に発展するとは想定していなかった。もしわかっていたら、兵士誘拐はしていなかった。
今後は、国境を越えてイスラエル軍兵士に対する攻撃をするつもりはない。ただし、もしイスラエル軍がレバノン領にいる場合は、攻撃する権利があると考えている。」
「シェバア農地」には、イスラエル軍が駐留しています。ヒズボラは、この地域はレバノンの領地と認識しています。そのため、ここで紛争再開の可能性があると懸念されています。
イスラエルのオルメルト首相は停戦をきっかけに、イスラエル政府とレバノン政府との和平を申し入れました。しかし、レバノンのシヌエラ首相は「レバノンはイスラエルと和平を結ぶ最後の国だ」と言い、イスラエルとのいかなる交渉にも応じないと表明しました。
30日、イランの副首相がレバノンを訪問し、政府と支援の方策について協議しました。イランはすでにヒズボラを通じて、被害家族に12,000ドルの資金援助を実施しています(前回ハイメール参照)。
今回、イスラエルのヒズボラ攻撃が中途半端に終わり、国際社会もヒズボラに対して影響力を発揮できませんでした。その結果、イランがますます自信と力をつけたと評論家は分析しています。
イランは現在、国際社会から核開発疑惑で追求されていますが、国連の要請に応じる気配はありません。かえって長距離ミサイルの発射実験を行うなど反発を強めています。イランのアフマディネジャド大統領は、アメリカの干渉が世界平和を遠ざけていると主張し、ブッシュ大統領との公開テレビ討論を申し入れるなどしています。
ヒズボラに拉致された2兵士、ゴールドワッサーさんとレゲブさん返還に向けた交渉が行われています。アメリカ自由運動で著名なジェシー・ジャクソン牧師がヒズボラと連絡を取り、2人が生きていることを突き止めました。
国連アナン事務総長は、ヒズボラに2人の無条件返還を命じましたが、ヒズボラは「無条件返還はありえない。イスラエルにいる囚人と交換が条件」と拒否しました。
ヒズボラが2人を解放するなら、ガザで拉致されたシャリートさんも解放されるのではないかとみられています。しかし、パレスチナ自治政府のアッバス議長は、そのように楽観はできないとシャリートさんの返還が難しいと話しています。31日、3兵士との交換で囚人を釈放するよう訴えるデモがテルアビブで6万人規模で行われました。
イスラエルでは、戦争を導いた指導者たちへのきびしい追求が行われています。予備役兵の中には、十分な武器や糧食を与えられないまま前線に出た者もあり、ずさんな戦争経緯が指摘されています。
空軍に関しては、ガザでおこなわれているようなピンポイント攻撃がなぜレバノンでは成功しなかったのかも問題になっています。予備役兵らは、オルメルト首相の辞任を要求しています。またカツァブ大統領の女性問題が発覚し、国家調査機関が調査にあたっています。こちらも辞任が要求されています。
今回戦死した兵士の多くが、都会出身者ではなく、移民や貧しい地域のキブツやモシャブ出身者、また宗教的背景をもつ青年でたちであったことがわかりました。
現代イスラエルでは、建国時代のように軍隊で自己実現しなくても、一般社会においてそれが可能な時代に入っています。若者たちの中に、戦場で積極的に国のために奉仕する心が低下しているのではないかと指摘されています。
北部の町では、復興が始まっています。しかし、家を完全に破壊されてしまった人々の中にはまだホテルに住んでいる人もあります。学校では新学期を迎えていますが、校舎が破壊された学校も多数あります。イスラエル政府には、修理のために十分な資金がないと報じられています。
また、学校では心理的な打撃を受けた子供たちに異常行動が発生する可能性が高いとして、学校側は準備をすすめています。
イスラエルでは全国的に貧困がすすんでいます。全人口の130万人(子供3人に1人、高齢者4人に1人、5世帯に1世帯が「貧困層」に入りました。夏の観光シーズンにビジネスがストップした北部の町々ではさらに貧困者が増えるとみられています。
イスラエルがガザから撤退してちょうど1年となりました。ガザの無政府、不法状態は悪化するばかりです。
パレスチナ自治政府のスポークスマンガディ・ハマッド氏は、次のようにパレスチナ・ニュースのサイトに書いています。自治政府高官にしては初めて、イスラエルが撤退してから1年間の自分たちの歩みを批判する記事です。
(記事はJerusalem Post Aug.28 ‘Gaza is caught in anarchy and thuggery’より)
「イスラエルが撤退したとき、私たちはガザのすばらしい繁栄の将来をおもって喜び合った。ところがイスラエルに代わってやってきたのは悪夢だった。今では生きることも重荷になっている。
ガザを無政府状態にならないよう抑制していたのはイスラエルだった。イスラエルはその責務をおいて去っていった。私たちは今、どこで間違ってきたのか考えなければならない。
私たちは今まで相手の落ち度は指摘しても、自分の間違いを直視することをしなかった。カオス(混乱)、無政府状態、不法、無差別殺人、強盗、家族間闘争、汚職、交通法規なし状態。これと『占領』とどう違うのか。私たちは結局それらに『占領』されているではないか。」 ハマッド氏はイスラエルが撤退した後、パレスチナ人が自ら法を制定し、地域開発をしなかったことを認めています。
「イスラエルが撤退した1年間に、ほとんどの公共施設が破壊された上、死亡したパレスチナ人は500人、負傷者は3,000人に昇る。逆にガザからのロケット攻撃で死亡したイスラエル人は数人に過ぎない。扇動的なことばはやめて、もう少し頭を使い、有利な計算をすることは不可能だろうか。」
しかし、パレスチナ自治政府は、地域発展に協力しない団体が多すぎて、現実には状況を何も変えることができないと見ています。「私たちはバカの菌におかされている。もう方向性の感覚を失ってしまった。どこにむかっているのかもわからない。」
ハマッド氏は記事の中で、様々なパレスチナテロ組織に訴えています。「ガザをあわれみ扇動、カオス、銃撃、殺人、内輪もめをやめてくれないか。ガザにしばしの息抜きをさせてほしい。ガザを生かしてほしい。」
イスラエル軍は、30日、ガザとイスラエルの国境カルニ検問所付近で、ガザからイスラエルに通じるトンネルを摘発しました。このとき9人のパレスチナ人兵士が死亡しています。
シン・ベト(対パレスチナ治安組織)ディスキン氏によると、多数の密輸のトンネルが掘られ、武器がガザ地区に急速に備蓄されていると指摘。3年後には、第二のレバノン戦争がガザでおこると警告しています。
2006年ミス・イスラエルに選ばれたヤエル・ニツリさん(18)は、最もロケット攻撃の多かったキリアット・シモナ出身。
ミス・ユニバースでは、ミス・レバノンと一緒に舞台に立ちました。
テル・ハショメール病院に入院中のシャロン元首相は、著しい呼吸、腎機能低下で集中治療室に入っていましたが、状態が改善したため一般病棟に帰りました。
ニュース情報源:GPO(イスラエル・プレスセンター)、イスラエル外務省HP、ハアレツ、エルサレムポスト、イスラエルインサイダー、CNN、BBC、イスラエル国防軍HP、アル・ジャジーラなど
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