ホーム > 祈る > ハイメール通信 登録・停止 > バックナンバー > ハイメール通信No. 66 法の狭間で苦しむ移民の両親
【みことば】わたしはあなたがたを諸国の民の間から連れ出し、すべての国々から集め、あなたがたの地に連れて行く。わたしがきよい水をあなたがたの上に振りかけるそのとき、あなたがたはすべての汚れからきよめられる。わたしはすべての偶像の汚れからあなたがたをきよめ、あなたがたに新しい心を与え、あなたがたのうちに新しい霊を授ける。わたしはあなたがたのからだから石の心を取り除き、あなたがたに肉の心を与える。
わたしの霊をあなたがたのうちに授け、わたしのおきてに従って歩ませ、わたしの定めを守り行なわせる。
あなたがたは、わたしがあなたがたの先祖に与えた地に住み、あなたがたはわたしの民となり、わたしはあなたがたの神となる。(エゼキエル36:24-28)
旧ソビエト連邦から移民してくる人々――彼らが直面する問題は実にさまざまです。今回のハイメールでは、法の狭間で苦しむあるカップルが直面するケースを取り上げました。
イェフゲニーとラリッサ(仮名)は、結婚していませんが、一人の子どもがいます。1年半前、弁護士のアルカディ・プガク氏は、この息子のことで、彼らから相談を受けました。
最初、ラリッサは近親者の助けを得て、シングルマザーとして息子を育てていました。しかし約3年前、社会福祉局は調査の末、ラリッサを「母親として適格ではない」とみなしました。その後のさまざまな調査・法的手続きを経て、ラリッサは養育権を剥奪され、子どもは里親の下へ引き取られることとなりました。
その後、イェフゲニーがラリッサの元へ戻って来ました。二人は子どもを取り戻すために動き始めました。しばらくは監視の下、二人は息子に時々会うことが許されました。しかし、里親に正式に引き取られてから、1年、会っていません。
しかし、二人は息子をあきらめませんでした。ラリッサが一枚の青いカードをもってきました。それには、ロシアの教会の十字架のマークが印刷されていました。この青いカードの出現によって状況は一変しました。それは、ラリッサが、ロシアにおいて、キリスト教の信仰を受け入れていたという証明書でした。
ラリッサの母親はキリスト教徒で、父親はユダヤ系です。今から4年前、ラリッサは帰還法に基づいて、すでにイスラエルへ帰ってきていた父親と合流するために移民してきました。息子はイスラエルで生まれましたが、宗教的には母親と同じキリスト教徒になります。イスラエルの里親法第5条には「里親と里子の宗教は一致していなければならない」とあります。この法律に基づく以上、ラリッサの息子を、里親たちが手元に置き続けることは違法となります。プガク氏はこの事実を、依頼人の訴えが認められるための強力な切り札となると確信しました。これはすでに、親の扶養能力云々を問う問題ではないムム必ず勝てる、そうプガク氏は信じています。
プガク氏自身は、15年前にタジキスタンからイスラエルに帰還する前は、地元のユダヤ人社会の指導者的立場にありました。超正統派ユダヤ教徒である彼は、この訴訟を、「単に法律的な見地からだけでなく、ユダヤ教の信仰を守るために勝つ」としています。このままで行くと将来、法的にも、宗教的にも、信仰の違いから、ラリッサの息子と里親が困難に直面すること目に見えている、というのです。
「血のつながりがありながら子どもを手放さざるを得なくて苦しんでいる両親、そして法的な問題からこのまま子どもを手元において置けない里親たち――ここに二組の両親がいる。」と、プガク氏はこの悲劇を要約しました。「理論から行くと、キリスト教徒の家族が里親となって、ラリッサの息子を受け入れる、ということもあるだろう(そうなれば何の問題もない)。しかしその場合、子どもと、残された二組の親たちに深い精神的ダメージを与えるだろう。子どもが今どこにいるのか、私には分からない。しかし、一回目の審議で、私がラリッサの例のカードを提示した時の騒ぎの様子からすると、里親は恐らくキリスト教徒ではない。里親側は『子どもはまだ小さいから、宗教のことは問題ない』と言っているが、これが逆の場合だったらどうだろう。ユダヤ教徒の子どもが、キリスト教徒の里親に引き取られたら、果たして同じ言葉が出るだろうか。
どんな物事においても、まずは法が先行する。この件について、ある有名なラビに尋ねたところ『それはハラハー(ユダヤ教の実生活に関するさまざまな規定)に違反する』と解釈している。いずれにせよ、法にはっきりと定められている。『里親と里子は同じ信仰を持たなければならない』と」
この、引き離された家族の悲劇は、イスラエルの移民問題が抱える一つの現状です。旧ソビエトから大量に流入してきた移民の中には、異宗教間婚姻で成立した家族が多く存在し、イスラエルが過去に直面することがなかった諸問題を生むこととなりました。今回のような里親問題も、その一つです。
ここへ来て、里親法第5条の定義が大きな意味をもつものとなっています。しかし、この問題で生まれる現実はそれだけではありません。通常なら、里親に引き取られた子どもは、実の両親と接触を続けることができます。しかし、ロシア語を話すロシア系の両親からその子どもが話された場合、関係は断ち切られます。子どもはロシア語を話さなくなり、実の親とコミュニケーションが取れなくなります。また、ロシア系としてしての性質が薄れ、新しいメンタリティーが形成されることになります。
ラリッサとイェフゲニーの会話は、引き離された息子のことでいっぱいです――「いつ帰ってこられるのだろう」。彼らは、貧しいながらも何とか生活しています。息子の帰りを待ち、家には、おもちゃや、テディ・ベアのぬいぐるみなどが用意されています。イェフゲニーは息子の帰りに備え、家の壁のペンキを塗りなおしています。息子の写真が家中に飾られています。
扉の向こうで行われた会議によって、ラリッサは母親失格と見なされました。この決定を裏付けるために、ありとあらゆる種類の手続き・調査を通らされてきました。ラリッサは言います。「イスラエルに来たころ、私は精神的に健康でした。でも今は異常な状態だと自分で言えます。イスラエル自体が異常な国です」
この種の悲劇は、見知らぬ国で、不可解な慣習に直面する女性に起こり得るものです。最後に許された、何度かの面会の時点で、すでにラリッサは、息子との会話に困難を覚えていました。息子はロシア語を忘れ始めており、ラリッサ自身はヘブライ語が上手く話せないからです。
ラリッサは言います。
「私自身はキリスト教徒です。イェフゲニーはユダヤ人ですが、それでもやはり、私は息子をキリスト教徒として育てたい。あるいは、息子が大人になったら、どちらの宗教をとるか、自分で選択したらいいのです。結局のところ、神さまはひとりなのですから」
息子が戻り次第、ラリッサとイェフゲニーはキプロスで結婚式を挙げ、家族としての出発を図る予定です.
(注:イスラエルのすぐそば、地中海の島国。海外で結婚する場合、イスラエル国内のようにラビの下でユダヤ教に改宗する手続きを行わなくても婚姻が成立する。そのためキプロスは、宗教を異にするカップル、ユダヤ人と非ユダヤ人のカップルに人気)。
ラリッサは言います。
「こうして母親も、父親もいるのです。実の子どもと離れ離れになる理由などあるでしょうか?」
〔リリー・ガリル:2005年5月27日付 “ハアレツ”より抜粋・要約〕
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