ティーチングレター

ホセア -前編-

TEXT:シェリル・ハウアー [BFP国際開発ディレクター]

ヘブライ語でホセア

ユダヤの伝承において、多くの預言者の中でも特に偉大とされる人物がホセアです。ホセアは彼の生活のすべてを神に委ね、神のイスラエルへの愛を身を持って体現しました。前半は、ホセアの物語から神の愛を学びます。

今、世界中で人々が希望を失い、不安を感じています。しかし、私たち聖書を信じる者は、今日の最も難しい状況を打破するための答えがどこにあるのかを知っています。アブラハムやモーセと顔と顔を合わせて話された同じ神が、今日私たちにも語ってくださっています。何千年も前に語られた彼らへのメッセージは、困難な中に生きる私たちへのガイドブックとなります。使徒パウロはこのように書き送っています。「昔書かれたものは、すべて私たちを教えるために書かれたのです。それは、聖書の与える忍耐と励ましによって、希望を持たせるためなのです。」(ローマ15:4)「聖書はすべて、神の霊感によるもので、教えと戒めと矯正と義の訓練のために有益です。」(Ⅱテモテ3:16)新約聖書に「聖書」という記述がある場合、その聖書とは今の私たちが言う「旧約聖書」を指しています。旧約聖書に切々とつづられる神のイスラエルへの愛を知ることは、現代の私たちに有益です。なぜならそれは私たちを励まし、希望を与えるからです。今月と来月は旧約聖書、特にホセア書を、ユダヤ的視点から学び、励ましを受け取りましょう。

神はイスラエルが正しく歩むときには、預言者を立てられませんでした。預言者はイスラエルを立ち返らせる役割として、神ご自身によって召し出されました。そして国に対して罪を厳しく指摘し、裁きを預言し、神の民を悔い改めへと導きました。実際、イスラエルの歴史を通して何千人もの預言者が召し出されたことが分かります。しかし、そのほとんどがその時代にだけ必要とされたメッセージを伝達したので、記録されなかったのだと考えられています。

神の民の将来にとって、預言者の役割は重要です。聖書には17人の預言者(ヘブライ語でネビィーム)が登場します。5人は大預言者と呼ばれ、残り12人が小預言者です。ホセアは小預言者に属します。ここで覚えておいていただきたいのは、大小は重要度ではなく、預言の期間の長さによって分類されているということです。

ホセアの人物像

ホセアは、自分自身の情報をほとんど提供していませんが、その時代のユダヤの生活を文脈から見ていくなら、彼のことをいくらか知ることができます。まず、ホセア1章1節から、ベエリの息子であることが分かります。このベエリは、Ⅰ歴代誌5章6節に出てくる、ルベン人の族長であったベエラと同一人物であったという説があります。ベエラは、キリスト教世界の中ではほとんど無名ですが、ユダヤ教の中では良く知られた人物です。彼は、カナン人の魔術師に対抗する、非常に強力な預言者だったと言われています。しかし、そのメッセージがとても短かったために、一つの預言書としては不十分で、イザヤ8章19-20節に凝縮して組み込まれたと言われています(Midrash'LeviticusRabba)。このことから、真実の神に忠実を尽くす、手本となる父の元でホセアは育まれたことが分かります。ホセアは小さいころから神のことばによって教育され、偶像礼拝を忌み嫌いました。

当時、息子の命名は父親がしました。そこにも深いヒントがあります。ホセアという名は、ヘブライ語根「ヤシャア」に由来し、「救われる」「解放される」を意味します。同じ語根から派生する他の名前に、ヌンの子ヨシュア、イェシャイャフゥ(イザヤ)、イェシュア(イエス)があります。ほとんどの聖書辞典は、この名前をただ「救い」と表しています。自分の息子がイスラエルを救う重要な役割を果たすだろうと信じて、このような名前を付けた父親の気持ちが伝わってくるようです。

ホセアの時代

ホセアは、南北イスラエル両方の王国が、平和と繁栄から、大きな混乱と厳しい貧困に陥っていくのを目にしたことでしょう。父祖たちの神を捨て、道徳の堕落と偶像礼拝という罪を犯したため、両国とも捕囚の民となってしまったのです。4章で、ホセアは、「(イスラエルの子らには)真実がなく、誠実がなく、神を知ることもない」と言っています。彼らは「のろいと、欺きと、人殺しと、盗みと、姦通」(4:2)を行っていました。9節はとても否定的な語を用いて祭司を批判しています。タルムード(ユダヤ教の注解書)にはこう書かれています。「いわゆる霊的指導者である彼らが、実際には人々が罪を犯すことを奨励していた。そうすることで、人々が多くのいけにえを神殿に持ってきて、祭司たちが収益を上げることができたからである。」また、5章では、ユダの首長たちが泥棒のようになり、「地境を移す者のように」なって土地を盗んでいると言っています。国の最高指導者から市民に至るまで、イスラエルは自己の欲求を満たすことに夢中になり、主から遠ざかり、主の愛の御手からそれてしまいました。神に安定を求めて祈るよりも、周辺の異教徒の国々と同盟を結んで平和を得ようとしたため、みことばに従う努力は無益で道理にかなわないものとなったのです。

ホセアの任務

このような社会的、政治的環境の中で、主はホセアに語られました。主が語られることを聴いて解き明かすことに身を捧げているホセアにとっても、頑なな民に対する預言は衝撃的な受け入れがたいものでした。ホセアは、預言者という職業の持つ危険性と困難を知っていたはずです。神が伝えたいメッセージを人々に分かりやすく説明するためには、神は、代弁者である預言者を困難な時代や屈辱的な状況に置かれることを躊躇(ちゅうちょ)されません。ホセアには、姦淫の女をめとるように言われました。神が言われることとしては、これは少々度が過ぎないでしょうか。しかし、聖書には、ホセアが無条件に従ったことが記録されています。

ホセアとゴメルの結婚を事実とするものと、寓意的なものとするものと、聖書学者の間でも諸説に分かれますが、今回はあくまでも事実という立場をとるタルムードから、この背景にあるとても意味深い物語をご紹介します。

タルムードによると、神はホセアに、イスラエルの民のために、民を代表して祈るよう促しました。神がホセアに期待したことは、イスラエル民族、つまりアブラハム、イサク、ヤコブの子孫が、契約ゆえに神に愛されている民であることを主に思い起こしていただき、神の哀れみを乞うようとりなすことでした。

しかしこの時点でホセアは、イスラエルの民に対してほとほと嫌気がさしていました。タルムードによれば、彼はイスラエルの民のためにとりなすよりむしろ、「全宇宙の王なる主よ。世界はあなたのものです。このうなじのこわい民を滅ぼし、代わりに他の国を用いてください。」と答えました。

そんなホセアを神は忍耐を持って取り扱われました。ホセアに姦淫の女と結婚するように命じたのです。従順にもホセアは、姦淫の女の娘であり、彼女自身もそうであるゴメルと結婚しました。彼らには3人の子どもが生まれました。最初の息子は、イズレエル。2人目は娘で、ロ・ルハマ(愛されない、哀れみのない)、3人目はロ・アミ(あなたはわたしの民ではない)です。ゴメルの生活スタイルには疑問があって、ホセアは、子どもたちが自分の子であるかどうかさえ確かではなかったものの、彼女を愛し、家族に献身的であったと賢人は言います。ゴメルが以前の職業に戻ったとき、ホセアは自ら彼女を取り戻そうとし、彼女の罪を贖うために高額な代金を支払いました。

ついに、主はホセアに、「妻と離れていた期間があったモーセのように、あなたも彼女から離れなければならない。」と妻と子どもたちを一度に去らせるように言われます。しかし、ホセアはこの時はすぐに従おうとはせず、「全宇宙の王なる主よ。私は彼女を去らせることはできません。私は彼女を愛し、子どもたちを愛しています。」と涙ながらに訴えました。主は問い返します。「ホセアよ、なぜあなたは泣いているのか。」ホセアは答えます。「主よ、私の妻と子どもたちを哀れんでください。」主は優しくホセアに答えます。「あなたの妻は姦淫の女で、子どもたちの父親が本当にあなたであるのかすら分からないではないか。それでもあなたは彼らを愛し、彼らに代わって哀れみを乞うのか。アブラハム、イサク、ヤコブの子孫、イスラエルはわたしにとって、わたしの愛する子どもである。同じ哀れみを彼らにかけるべきではないか。イスラエルはわたしの愛する所有であるが、あなたはわたしに彼らの代わりに他の国を置きかえるようにと言うのか。」

ついに、ホセアは自分の罪の深さに気付きます。イスラエルを拒絶し、見捨てるように願うとは、神に対して何ということを言ってしまったのかと。彼の結婚生活が、彼自身に哀れみと献身の心を悟らせました。民に対する神の御心を知り、その重荷を共に担うために、この経験が必要でした。このときに神の愛の深さを知り、ホセアはイスラエルのために哀れみを乞い、祝福を語り始めた、とタルムードには書かれています。このようにして、イスラエルのためのとりなし手へと、ホセアはつくり変えられていきました。この物語が事実であったかどうかは別として、何度裏切られてもイスラエルを愛された神さまの無限の愛と哀れみがよく表わされています。この同じ愛が、アブラハムの霊的子孫となった私たちクリスチャンにも注がれていることを思うとき、勇気と希望が湧いてくるのではないでしょうか。

今月はホセアの結婚生活そのものがイスラエルへの神の愛を表す視覚教材だったことを学びました。次号では、さらに細かい描写の一つ一つに隠されたメッセージを探求していきます。

〈参考文献〉

  • Introduction to Mishneh Torah.
  • J. W. Etheridge, Intr. to Heb. Lit., 1S56;
  • Encycl. Bibl., s.v. " Law Literature ";
  • W. O. E. Oester ley and G. H. Box;
  • A. S. Geden, Intr. to the Heb. Bible, 1909.

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