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ヘブライ語で学ぶ詩篇

詩篇を学ぶために知っておくこと-3

ヘブライ語の詩的表現

日本では、日本語の美しさを際立たせる定型詩として俳句と短歌が有名です。俳句には、季語や切れ字を使うというきまりがあり、その字数は、五・七・五の17文字とします。また、表現の面では、感情を直接表現せずに、物などに即して表現することが良い俳句の条件であると言われます。これらの決まりごとを知らずに、俳句を読むと、そこに含まれている素晴らしい余韻を楽しむことができず、日本人の心を理解することができません。

ヘブライ語で書かれている詩篇も、俳句や短歌と同じように、いくつかの決まりごとがあります。それらの決まりごとの中に詩人の心と神の真理が閉じ込められています。そういった詩的表現技術を知らずに詩篇を読むと、俳句の決まりを知らずに字面だけ読むのと同じで、言葉の背後に秘められている情緒や世界観を理解することが困難です。

旧約聖書の3分の1が、何かしらの詩的表現によって書かれていることからも分かるように、ヘブライ語の聖書と詩は切っても切り離すことができない関係にあります。多くの表現技術(修辞技法)は、日本語に訳されてしまうと分からなくなってしまいます。それでも日本人が読み取ることができる代表的な表現方法を学ぶことで、さらに深い聖書の世界を探求していきましょう。

パラレリズムの基本

ヘブライ文学の中で、最も重要で、頻繁に使われている修辞技法は、「パラレリズム(parallelism)」と呼ばれるものです。日本語では、対句法、並行法、または平行構造などと呼ばれることがあります。パラレルというのは「平行」あるいは「並行」という意味です。ですから、文章のパラレリズムは、 「語格・表現形式が同一または類似している二つ以上の句を相対して並べ、対照・強調の効果を与える表現」 ということです。

戦国大名・武田信玄の軍旗に記されたとされている「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」(其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵略すること火の如く、動かざること山の如し)も、言ってみればパラレリズムの一例だと言えるでしょう。

しかし、ヘブライ語のパラレリズムは、日本語の対句法よりもさらに奥が深く、ただ似た言葉を並べるだけではなく、その並べ方によってさらに多くの情報や感情を表すことができます。今日は、その中でも特に重要な3つの代表的パラレリズムを紹介したいと思います。

同義型パラレリズム

これは、2行目が1行目で語ったことを異なった言葉で言い換える型です。しかし、この型の特徴は、2行目が1行目の内容を繰り返しているだけではなく、それをさらに展開することによって、1行目よりもより具体的な内容を読者に伝えられるということです。つまり、2行目以降が、前行の意味をさらに具体化した形で述べられているので、この手法を用いることによって著者の感情の度をさらに増したり、そこに書かれている真理の重みを一層強めたりすることができるのです。

【具体例1】詩篇130:1-2 (原語訳)

1節 主よ。深い淵から、私はあなたを呼び求めます。
2節 主よ。私の声を聞いてください。あなたの耳を私の嘆願の声にどうか傾けてください。

この箇所では、2節目が同義型パラレリズムによって書かれています。

A. 主よ B. 私の声を C. 聞いてください
A’. あなたの耳を B’. 私の嘆願の声に C’. 傾けてください

1行目では、この祈りの宛先を「主」と表していますが、2行目では、「あなたの耳」と表現することによって、その祈りがただ主に向けらえているだけではなく、聴覚を司る「主の耳」に届くことを願っていることがうかがえます。詩人がどれほど真剣に祈りを聞いて欲しいのかが伝わるのです。

また、1行目では、「私の声を」と書かれていますが、2行目では、「私の嘆願の声に」と表現することによって、著者が精神的にどれほど行き詰っているのかうかがうことができます。そして、最後の部分は、主に自分の声をただ聞いてもらいたいのではなく、その具体的な祈りに耳を傾けて、すぐに応答してほしいという熱意が伝わります。私たちは、この節を簡単に読み飛ばしてしまうかもしれませんが、ユダヤ人はこの節を読んで、詩人の非常に行き詰った状況に感情移入することができたのです。

【具体例2】詩篇1:1

「幸いなことよ。悪者のはかりごとに歩まず、罪人の道に立たず、あざける者の座に着かなかった、その人。」

この箇所では、2節目が同義型パラレリズムによって書かれています。

A. 悪者 B. はかりごと C. 歩まず
A’. 罪人 B’. 道 C’. 立たず
A”. あざける者 B”. 座 C”. 着かなかった

ここでは、罪びとがどのように悪に染まっていくかが書かれているのではありません。この型のパラレリズムの役割は、一つの思想を、異なる表現でさらに具体的に展開することによって、全体図を鮮明にすることです。

ここでも2列目以降が前列の表現をさらに具体化しています。「悪者」とは、神の前で正しくない人のことを指します。しかし、「罪人」とは、ただ漠然と正しくない人の事を指すのではなく、特にモーセの律法に反した掟破りの人を指します。そして、最終的に、その罪の具体例として神を「あざける」ことが挙げられています。

また、「歩く」、「立つ」、「座る」は、日常の生活のさまざまな側面を指しており、人目にふれる生活面(歩く)から、プライベートな生活面(座る)のあらゆる面を表しているのです。

ですから、ここで詩人が言いたいのは「罪人と徐々に友達になることによって、罪人の生活に馴染んではいけません」ということではなく、「神をあざけったり、神との契約を無視したりしない人は、神から祝福を受ける」という真理なのです。

【具体例3】詩篇33:18

「見よ。主の目は主を恐れる者に注がれる。その恵みを待ち望む者に。」

ここでは、「主を恐れる者に」という表現がされていますが、具体的にそれはどのような人物なのでしょうか。この箇所では、その人物を「主の恵み(ヘセッド)を待ち望む者に」とさらに具体化されています。この場合、「主を恐れる」ということがどのような事なのかが漠然としすぎているかもしれません。しかし、それを「主のヘセッド」(前回の記事参照)を待ち望む者だと言いかえれば、そのような信仰が主を恐れることの具体例なのだと理解できるのです。つまり、主の契約を思い起こし、主が必ずその約束に忠実でいてくださる事を確信し、信仰によって神の命令に信頼する生活を送ることが「主を恐れる」ことなのだと理解できるのです。

反意型パラレリズム

これは、1行目と2行目に対照的な内容を含めることによって、表裏一体をなす現実をよりよく表現する型です。これは、二者択一の選択を迫る時に、よく使われる手法の一つでもあります。

【具体例4】詩篇18:27

「あなたは、悩む民をこそ救われますが、高ぶる目は低くされます」

A. 悩む民 B. 救われます
A’. 高ぶる目 B’. 低くされます

この節も、イスラエルの民が主と結んだモーセの契約を意識して解釈しないと正しく理解できません。前回の記事に書かれていたように、神は、イスラエルの民に、二つの選択を与えられました。それは、彼らがへりくだり、まことの神を彼らの主として認め、モーセの律法を民が一体となって守るのであれば、彼らを祝福し、敵から守り、約束の地を与えるというものでした。そして、同時に、もし彼らが神から離れ、偶像に従うようになると、神は彼らに災いをもたらし、彼らを裁かれるというものでした。

ここで「悩む民」とは、「自分で自分の必要を満たせない事を認めている民」という意味合いで使われています。また、「高ぶる目」とは、「神に頼る必要を感じていない民」の態度を表しています。ですから、ここでは主により頼めば救いがある事実だけを強調しているのではなく、主を捨てると災いが用意されていることを思い起こさせることによって、モーセの契約の全体図を思い起こさせ、正しい選択を民として選ぼうと勧めているのです。

比較型パラレリズム

この種類のパラレリズムは、比喩表現を含んだ文章を二つつなげて構成することによって、そこで比較されているものの共通点を強調します。
代表例として、詩篇103:13や42:1などを挙げることができます。

【具体例5】詩篇103:13

「 父がその子をあわれむように、主は、ご自分を恐れる者をあわれまれる。」

A. 父が B. その子を C. あわれむように
A’. 主は B’.ご自身を恐れる者を C’. あわれまれる

ここで詩人は、神を恐れる者が神の子となれると教えているのではありません。ここでの共通点は、神のあわれみがどのように示されるかということです。ですから、この箇所では、神との親子関係を教えているのではなく、親が子に対して愛情を注ぐのと同じように、愛情を注がれる主のあわれみについて語っているのです。ここで書かれているあわれみは、主を恐れる者だけに与えられるという条件付きですが、それもまたモーセの契約に基づいた約束であり、詩篇の著者たちがどれほど神との契約を生活のすべての面で意識していたかがうかがわれます。

パラレリズムを理解して詩篇を読もう

日本の俳句が、制限された文字数の中で、そこに書かれている事柄よりも大きな世界を描くことができるように、ヘブライ語の詩的表現も、そこにある「決まりごと」を理解している人たちに、より深い恵みを与える事ができたのです。聖書の言葉は、美しく、実用的です。また、それは単純でありながら、とても奥深く、世界を持っています。これらのことを意識しながら詩篇を読むと、それまで気付かなかった神の真理の重みが私たちの生活に大きな変化をもたらす力となるでしょう。

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