大学生の時、BFPの現地ボランティア経験者からアブラハム契約の話を聞き、目からウロコの体験をしています。神学的な立場はいろいろあるでしょうが、その後も自分なりに追い続ける中で、普通に読んですんなり筋が通る理解の仕方として、聖書のユダヤ性をもっと知りたいと思うようになりました。旧新約は対立するものではなく神の物語として一つのものだという意識はいよいよ強くなり、実際にイスラエルの地に行き、聖書の舞台の風を感じてみたいと願うようになりました。近年は妻と二人三脚で子育て真っ最中の身、何日も家を空けることは不可能でしたが、今年になって不思議と道が開かれました。神さまと家族に感謝しています。
BFPのツアーはただの聖地旅行ではなく、ユダヤ人の歴史を振り返り、イザヤやエレミヤの預言のように彼らが「四方から」戻ってきている様を目の当たりにさせるものだと言えるでしょう。加えて今年はMarch of the Livingに参加するということでした。ユダヤ人のアイデンティティ教育であるマーチへ参加するというツアーの特殊性はイメージしきれませんでしたが、それでも人類史上最大の虐殺現場であるアウシュビッツに行く以上はと、関空に向かう電車の中でも関係書籍を読み続けました。少しでも何かつかんで帰らなければならないという思いがあったからです。
実際にアウシュビッツなどの強制収容所で遺品の山を目の当たりにして感じたことは、人の社会はあっという間に転落していくものなのだということでした。髪の毛の束の山、靴の山、子どもの服に声を失いました。ナチスはユダヤ人だけでなく反体制派を次々と収容しましたが、世が世なら教会教職者である自分も捕らえられたかもしれません。信仰ゆえの毅然とした態度は火に油でさらなる暴行を受けたとか。しかし逆の意味でも他人事ではありませんでした。現代日本ではヘイトスピーチなど根が同じものが息を吹き返していると指摘され、私も意図せず他者を差別し抹殺する側になってしまうかもしれないと思うと恐ろしく思いました。ツアーでは「証人となる」というテーマでチャレンジを受けましたが、このような時代のただ中にあって具体的な生き方が問われると思いました。マイダネク収容所のモニュメントに付着していた遺灰の感触を、生涯忘れることがないようにと願います。
ユダヤ人の痛みを理解したつもりにはなれませんが、スピーカーから途切れなく流れる犠牲者の名前と、小雨の中、家族や親族のことを思って泣いていた彼らの姿が強い印象に残っています。青い空と、どこまでも続く新緑の美しさは当時と同じもののはずで、彼らと同じものを見ているのだと思うと厳粛な気持ちになりました。線路に手書きのメッセージ板を残す際、聖書を守ってきてくれたことへの感謝を書き残してきました。
イスラエルに渡って印象深かったことは数え切れません。アルベル山から見渡した360度のパノラマ(マタイ28:16-20)、ガリラヤ湖の朝日(ヨハネ21:4)、カペナウムの遺跡群、荒野で夜中に見上げた星空の広さ。またエルサレムではカヤパの家から発掘された貯水槽(地下牢)が印象的でした。十字架の場所にはゴテゴテと教会が建てられていますが、捕らえられた主が一晩過ごされたはずのこの場所は当時のそのままです。詩篇88篇が読まれ、主の孤独と苦しみを思い祈りながら涙が止まりませんでした。
ヴィア・ドロローサでは、あの日の祭りの喧騒を思わせるような土産物屋の騒がしさの中で、主の十字架とは生々しい具体的な私の生活にダイレクトに関係しているのだと思えました。その場で勧められたように「私はいやされた」とⅠペテロ2:24を思い巡らせながら歩きましたが、続く3章が目に留まりました。十字架を背負われた主と「同じように」妻を愛し、「いのちの恵みをともに受け継ぐ者として尊敬しなさい」と。家庭において、いつも自分の都合を中心に考えてしまう自分のあり方を改めなければならないとずっと示されていたのですが、ここでも主は、みことばと、また一歩一歩歩む道行きを通して語ってくださいました。イエスさまの十字架の歩みが力強いものではなく、倒れもしたこと、しかし最後まで歩み通されたことに慰められます。主は必ず私を作り変えてくださることでしょう。楽しみです。
MOLの最終日、世界中からの集まってきたユダヤ人の若者たちと一緒にエルサレムを行進しました。アウシュビッツでのマーチの後、彼らの多くもイスラエルに渡り、自転車旅行などで国土を堪能していたようです。アウシュビッツでは1万人、エルサレムでは4千人でしたか、これだけのプログラムを毎年行っているとは、次世代育成への力の入れ方に唸らされます。「帰還」は簡単なことではありませんが、祖先の地であるこの国土への思いは並々ならぬものがあると感じました。そう言えば、野外ステージでのイベントのオープニングで創世記12:1-3が読まれていました。個人的にも主から多くを語られている最中の箇所なので、感慨深いものがありました。
BFPのフードバンクでは、預言者たちが語ったように「北から」戻ってきた人々(そう言えばツアー中バスに同乗してくれたセキュリティの青年もロシアからの帰還者でした)の苦労を目の当たりにしました。子育て真っ最中の若い夫婦の必要が手に取るように分かり、その後備蓄品に手を置いて祈る時を持ちましたが、オリーブの缶詰を手にとって祈りながら涙が止まりませんでした。
エルサレムの平和のために祈ることを、また新たに始めていきたいと思います。遠くに見えた分離壁は問題の複雑さを物語っています。神のシャロームがこの地にありますように。最後になりましたが、足長おじさんを始め、BFPの皆様に心から感謝しています。ありがとうございました!
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