TEXT:B.F.P.Japan編集部
フードバンクでボランティアとして大活躍した石本良恵さんが10月、無事に帰国しました。その石本さんが常に心を砕いていた存在、それが「ウォークイン」と呼ばれる人々でした。今月は、BFPの通常の支援プログラムから残念ながら漏れてしまったウォークインの人々について、石本さんによるレポートをお送りします。
フードバンクの日常
フードバンクには毎日さまざまな人が訪れます。出入りの業者や協力団体、個人の方たち、見学のツーリスト、オリエンテーションを受ける新人ボランティア、トイレを借りに来る通りすがりの人もいます。玄関先を掃いていると、入ろうかどうか迷っている人も見掛けます。「シャローム」と声を掛けると、ほっとした様子で入って来られます。「ここはどういう場所なんだ!」と詰問する人もいます。そんなときにも、私はにっこり笑って中へご案内します。
ある日、「オヘル、オヘル」と言いながらユダヤ人女性が入ってきました。「オヘル」とは「食べ物」のことです。手にはIDを握り締めています。この人は「ウォークイン」の人です。ここに来れば食べ物がもらえると誰かから聞いて、初めてフードバンクを訪れたのです。
積み込むボランティア
面接を受け、里親プログラムの援助を受けられるようになった人たちは、毎週配給される食料が保証されているので、もう飢えることはありません。しかし、緊急避難的に食料を求めてフードバンクを訪れるウォークインの人たちは、もう何日も満足な食事をしていない場合が多いのです。貧困や空腹は人々から希望を奪い去ります。私は、絶望し疲れきった様子のユダヤ人を見ては、幾度も激しく主に祈りました。
ウォークインの人たち。彼らは月に一度フードバンクを訪れ、食料の入ったパックを受け取ることができます。ユダヤ人である証明のIDカードを提示していただき、専用のノートに番号と名前を記入し、食料をお渡しします。チェックが必要な理由は、月に何度も訪れる人がいるからです。予算には限りがありますし、月に一度というのは、彼らから働く意欲を奪わない、ちょうどよい頻度だと私は思います。毎月訪れる人もいれば、一度きりの人もいます。ものすごくお腹を空かせている人には、簡単な食事を用意することもあります。ずっと来ていた人が来なくなると、貧困から抜け出せたのかな、と思い巡らしたりします。
増大する必要
最近、このウォークインの人たちが増えています。私たちは月に二度、パックをつくり棚に並べておきます。以前はこの棚が空っぽになることはなかったのですが、最近は空になってしまい、せっかく来てもらっても何もお渡しするものがないという状況が何度もありました。時には冷蔵庫にある余分なものをお渡しできるのですが、何もないときは残念なことにそのまま帰っていただくことになります。遠方から何時間もかけて歩いて来た方には、本当に申し訳ない思いでいっぱいになります。
入口脇の棚
ウォークインの中には、今日食べるものがなくて、意を決して初めてクリスチャン団体に助けを求めたユダヤ人も多いのです。「来月来てください。今はお渡しできるものが何もないのです」と告げたときの彼らの表情を、私は直視することができません。
彼らのほとんどが口コミでBFPのことを知り、援助を求めてやってきます。数が増えたというのは、BFPの認知度が高まったからでしょうか。それとも、好景気が貧富の差をより広げているからでしょうか。いずれにしても、希望に燃えて祖国への帰還を果たしたユダヤ人たちが飢えて絶望することは、神さまのご意思とは思えません。私たちにできることは何もありませんが、せめて当座の空腹を満たし、明日への希望を見つけてもらいたいのです。現場をこの目で見た者としては、訪れてくださる方、全員にお渡しできればと祈る思いです。ウォークイン用の食料は、全体の食料予算の中から割り当てられています。食料への支援がもっと増えたら、彼らのために用意するパックも増やすことができるのです。
ここで行われていることは、単なる援助や慈善活動ではないと私は思っています。イスラエルと教会に「平和の架け橋」を架ける働きだと信じています。ユダヤ人に奉仕することで彼らの心がほぐれ、クリスチャンへの誤解が解けていくように、そう願いつつ、一人でも多くのユダヤ人と出会い、関わっていきたいと思っています。そのための具体的な形の一つがウォークインへの援助です。
どうか、空腹を抱えてフードバンクを訪れるすべてのウォークインの人たちに食料を渡せるよう、必要が満たされますようにお祈りください。感謝します。
2007年10月8日石本良恵
編集部より
日本の皆さまからこれまで頂きました多大なるご支援は、貧しいイスラエル人、移住して間もないユダヤ人にとっての大いなる祝福となっています。ここに改めて心からの感謝を申し上げます。
しかし石本さんから寄せられたレポートにあるように、BFPの食料支援プログラムから漏れてしまう人がいるのが現実です。情報を聞き付けてやって来る人すべてに食料を渡せるわけではありません。必要が膨大なため経費が追い付きません。食料の受付を担当するスタッフの心を重くするのは、渡す人を選ばなくてはならない点です。ウォークインの人々の多くは、恥ずかしいのを我慢してフードバンクの入り口に姿を現します。彼らにとって、異邦人であり異教徒であるBFPに助けを求めることはとても勇気がいることに違いありません。
ここで、一人でも多くのユダヤ人と出会い、関わりをもつ機会を逃さぬよう、フードバンクの入り口がいつも私たちの愛の象徴である「食料」でいっぱいになっていますように。また、本当に私たちの支援を必要としている人を見極める力がフードバンクのスタッフに与えられるように、皆様のとりなしが必要です。今後共、覚えてお祈りくださいますように、心からお願い申し上げます。