「ヤコヴが死んだの、たった今……」。
震える声で、泣きながら、ミリィさんは、電話の向こうのBFPイスラエル人スタッフ、エリエゼル・ケンに、スペイン語で語りました。突然のこの言葉に、電話口のエリは驚愕しました。
「なぜ?一体どうして?あんなに元気だったのに!」
死因は突然の心臓発作だったと、ミリィさんはエリに語りました。
年老いて、やっとの思いで帰還してきたイスラエル。それなのに、愛する夫はいなくなってしまった。ミリィは今、言葉も満足に分からない土地で、一人ぼっちになってしまったのです。ミリィは何日も泣き続けました。しばらくの間、彼女の涙の泉が枯れることはありませんでした。
ミリィさんを支える愛の手
エリ(エリエゼル・ケン)
ヤコヴとミリィは、スペイン語を話すユダヤ人の移民です。この年老いた貧しい夫妻に、BFPは食料支援をしていました。そんな中、ヤコヴが突然亡くなり、誰一人頼れる家族も友人もいない中、ミリィの心に真っ先に浮かんだのが、BFPにいる友人たちの存在でした。
悲しみに暮れるミリィを新たな不安が襲うのに、それほど時間はかかりませんでした。ミリィの元に知らされたのは、夫ヤコヴが残した借金でした。日本並みに物価の高いイスラエルで、ギリギリの生活をしていたヤコヴにとって、それは孤独な、苦渋に満ちた選択だったに違いありません。額面は小額ですが、極貧状態で生活しているミリィにとって、返すあては全くありません。
債権者のうちの二人は、雑貨屋の店主でした。ある朝、ミリィに付き添って、担当のBFPスタッフが、このうちの一人、シモノフさんを訪問しました。
「ヤコヴさんの負債は、私たちがお支払いします。」
この言葉に、シモノフさんは、とまどいと驚きの色を隠せませんでした。
「あなたたちはクリスチャンの団体でしょう?なぜ、クリスチャンが!?」
イスラエルで奉仕を続ける
フードバンクのスタッフ
イスラエル人を愛し、イスラエル人のために祈り、奉仕するクリスチャンがいる。やもめになった女性のために、借金を肩代わりする。それはシモノフさんに、深い感銘を与えました。単にお金を無事返してもらったという喜びだけでは、決してありませんでした。神は素晴らしいお方です。一人の窮地にいた女性を助けたことが、他のイスラエル人の心を動かすきっかけとなったのです。
シモノフさんに加え、もう一軒の雑貨店の借金についても、BFPが代わって返済を行いました。ミリィさんの感謝と喜びが、いかばかりだったか、想像するに難くありません。
やもめを支えることは、イスラエルにおいて、聖書時代から徳のある行為とされ、社会の義務とされています。聖書時代さながらに、皆様の贈り物が、ミリィさんのような境遇にある大勢の人々に、助けの手となって届いています。
右:貧困に苦しむ高齢者は国内で急増している
「主は盲人の目をあけ、主はかがんでいる者を起こされる。主は正しい者を愛し、主は在留異国人を守り、みなしごとやもめをささえられる。」(詩篇146:8-9)
子どもたちの貧困
聖書時代から、イスラエルの社会の中でも、やもめと並んで支えるべき対象とされたのが、孤児たちです。
今、イスラエルでは、150万人の子どもたちが飢えに苦しんでいます(昨年8月報告)。そのうち71万4千人は、お腹をすかせながら夜ベッドに入るという、痛ましい状況にあります。空腹は子どもたちの精神を荒らします。ストリートチルドレンになったり、非行に走ってしまう子も珍しくありません。これらの子ども全員が孤児というわけではありませんが、親が食べ物を与えられない現実は、孤児と変わりありません。
こうした子どもたちは、栄養状態も悪く、満足に教育も受けられないので、社会にとって、将来的に大きな損失になります。人口700万人のイスラエルで、約5分の1を占めるそれらの「孤児・あるいは孤児同然」の子どもたちの現状に、教育関係者は大きな危惧を募らせています。
BFPが支援できるイスラエル人の数は現在、毎月2万3千人。――これを考えると、私たちの腕は、子どもたちの涙をぬぐってやれるには、まだまだ短いことをつくづく感じます。ぜひとも覚えて、お祈りいただければ幸いです。
皆様のご支援の一つ一つが、イスラエルの上に愛の言葉となって、毎月2万3千人の人々の上に、そしてその行いを目撃する、さらに多くのイスラエル人の上に、確実に豊かな祝福の実を結んでいます。イスラエルでは、一つの愛の行為が、千の慰めの言葉よりも、人々の心を慰め、癒やすのです。
本当にありがとうございます!!
そしてどうか、今月もイスラエルに、皆様の愛を注ぎ、お祈りで包んでいただければ幸いです。皆様の祝福を、心から深くお祈り申し上げます。