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プロジェクトレポート

はやく大人にならなければならない国

B.F.P.Japan局長 高田篤美

2005年6月5日、ハッツォール空軍基地を訪れました。約60年前にイスラエルを統治していたイギリスが残したという、古く汚い建物が並ぶ基地の中は、若いエネルギーにあふれていました。彼らの明るい笑顔に反して、イスラエルとパレスチナの土地問題は、ますます複雑な国際問題に発展し、双方の若者に暗い影を落としています。

イスラエルでは、18歳から3年間兵役に就かなければなりません。厳しい兵役中の訓練は、彼らに何をもたらすのでしょう。

真っ白な歯と、きらきら光る彫りの深い目が印象的な彼女は、イスラエルの安全を守る空軍の飛行士候補生。若干21歳の美女です。屈託のない笑顔から語られる言葉は、その年齢にふさわしくない人生の成熟を感じさせます。それもそのはず、彼女はイスラエルの人々に、明日の生命を保証するために、自分の生命を捧げているのです。冷静な判断力と安定した精神、卓越した学力と語学力、完璧な身体機能を有する、入隊者全体のわずか17%の者しか飛行士になることはできません。彼女は、その一握りの選ばれし者となったことを誇るのではなく、むしろ“国を守る”という仕事に緊張感を覚えているように見えました。

彼女とどうしても写真を撮りたくて願い出ると、彼女は本当に申し訳なさそうに、「ごめんなさい。あなたの写真を私が持つことができても、あなたは私の写真を持ち帰ることができません。」と言います。そのミッションの重要性のゆえに、顔を表に出すことができないのです。彼女たちには、写真を撮る自由さえ許されていません。

ある24歳の青年飛行士は、自分の家族についてこう語ります。「僕の祖父母はロシアからイスラエルへ移民した、ホロコーストの生き残りです。二人とも、すべての家族、親族、財産を失いましたが、今彼らには4人の子どもと21人の孫たちがいます。『ホロコーストの生き残りから何の良きものが生まれよう、と言われ、何も持たなかった私たちに、今は、国を守るために海軍に入った孫が二人もいること、これほどの人生の報いがあるだろうか……』と、しみじみ語る彼らの顔を見ながら、苦労ばかりしてきたこの人たちの笑顔を、この手で守らなければいけないと決意を固めています。愛する家族、そしてユダヤ人の祖国のために、僕は力いっぱいこの国に仕えていきたいと思っています。」と、澄んだ瞳にうっすらと涙を浮かべて静かに決意を語る彼の思いは、私たちの心に深く染み込んでいきました。

マイケル・コーヘンは、最前線をいく軍隊の大尉です。彼は自分の命を次のように語ります。「ほとんど毎日、死んでいく仲間がいます。また、ある友人は、いつもと同じ朝を迎え、いつもと同じように出勤し、突然テロに遭い、二度と目を開きませんでした。なぜ、彼らが死んだのか……。なぜ、自分ではないのか……。今日、この日を生きていること、それこそが私にとっては奇跡の積み重ねなのです。私たち軍隊は、他の国よりも優れた武器を持っているわけではありません。特別な訓練があるわけでもありません。私たちにあるのは、“国を守る”という真剣な心と愛だけです。」と。

はざまの若者たち

彼らは日本の若者と少しも変わるところはありません。旅行や遊ぶことが大好きで、ファッションや恋人の話に花を咲かせる、どこの国にもいる典型的な若者たちです。しかし、決定的に違うのは、死と隣り合わせの中で、自分の人生を、どう生きるかということを追求しなければならない点です。

子どもが兵役に就いている間、母親は「今日も無事だったよ!これから寝るから、お母さんも安心して休んでね。」という電話を受け取るまで、床に就くことができません。たとえそれが何時になったとしても……。命の保証のない彼らの家族関係は一層密接なものになります。親や家族に対して腹を立て、「バカやろう!!」と、悪態をついたまま最前線に向かうことはできません。もしかすると、それが最後の言葉になってしまうかもしれないのですから。こんな環境は、彼らがいつまでも子どもでいることを許しません。早く大人にならなければならない国、それがイスラエルなのです。

彼らに負わされているのは、精神的なプレッシャーだけではありません。日々の任務に加え、物資の欠乏に直面しています。特に、ロシアやアルゼンチンなどの地域から移民してきた貧しい家庭の子どもたちは、たった一つしかない下着や靴下を、来る日も来る日も洗って履かなければなりません。水道設備が悪い、あるいは任務で疲れ果てて洗うことができなければ、何日でも汗まみれの下着と靴下を履き続けることになります。たとえそれがどんな匂いを発していようとも。そればかりか、歯磨き粉や歯ブラシといった、必要最低限の品にも事欠く兵士がいるのです。

戦争や土地問題に対して、多くの“正しい”と思える意見があります。しかし、中東の問題はあまりにも複雑で、これが正しく、これが間違っているという判断を、私たちが下すことはできないと、中東を知れば知るほど思わされます。また、その背後には、血肉によらない、霊的な戦いがあるのです。霊的戦いは、その複雑さを一層ねじれた混乱へと導きます。そのはざまにあって、人の壁となって戦っているのが若者たちです。

国は制服と住居、一部の食事を提供するのが精いっぱいです。私たちBFP(ブリッジス・フォー・ピース)は、『ジョイバスケット』に下着、靴下、歯磨き、せっけん、シャンプー、お菓子などを詰め込んで、彼らに届けています。砂漠の中で、ほこりまみれになって働く彼らに、せめてさっぱりと体を洗い流して、気持ちよく床に就いてもらいたいと、子どもを心配する母親のような気持ちで、一つ一つ心を込めて配っています。

目を輝かせてバスケットを受け取る時の彼らは、18歳の青年そのものです。疲れ切った彼らの口に入るチョコレートの甘さは、多くの言葉で愛を語る何倍もの力で彼らの心を溶かすことでしょう。

皆様、どうか彼らの母親になっていただけないでしょうか。我が子を思うように彼らの命と生活のために祈り、同時に、敵対する人々に立ち向かっていくという精神的ダメージを受ける任務が、一日も早く終わるように。多くの若者が口にする、「僕たちとパレスチナ人は兄弟です。一日も早く、彼らと仲良くしたいのです。」という、心からの願いが実現するように。そして、我が子の靴下を心配する気持ちで、ジョイバスケットへの献金をお贈りいただければ幸いです。

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