TEXT:高田篤美(B.F.P.Japan局長)
国際会議のためエルサレムに滞在中、大きなテロがありました。ユダヤ教の神学校で銃が乱射され、合計8人が死亡、20人が重軽傷を負う大惨事が起きたのです。
後に犯人はイスラエルの永住権をもつ20歳のパレスチナ人青年で、エルサレムに住み、選挙権以外は市民と全く同じ保護を受けている人物であることが分かりました。事件のあった神学校では2年間運転手をしていました。エルサレムに住むアラブ人約25万人のうち24万人は永住権をもっており、以前にもこうしたトラブルがあったことから今後の対応が叫ばれています。いくら防護壁を築き、テロリストの侵入を防いだとしても、内部からいつテロが起こるか分からないことを今回の事件では改めて思い知らされました。自爆テロが難しくなったことで、ガザ地区からイスラエルの小さな町々に向けてミサイルが打ち込まれるようになり、テロは形を変えて継続しています。そんなとき、主が一つの希望を見せてくださいました。それが、BFPが取り組んでいる「アラブ人クリスチャン支援」です。
闇に輝く光
私たちBFPはアラブ人クリスチャンを支援しています。なぜならイスラム社会の中でクリスチャンとしての信仰を守ることは、命懸けの挑戦だからです。こんな出来事がありました。あるアラブ人クリスチャンの家庭で、おじいさんが50ドルのネックレスを孫娘に買い与えました。それを泥棒したと言い掛かりを付けられ、おじいさんは自治政府に逮捕されてしまいました。領収証を提示しても取り合ってもらえず、釈放の条件として5千ドルを要求されました。話し合いの結果、家族は家を売ってそのお金を工面し、引っ越さざるを得なくなってしまいました。誰が見ても不当逮捕であることは明白でしたが、彼らをかばってくれる人や機関はどこにもありません。アラブ人クリスチャンには、信仰を守ることで、こうした言われなき迫害や戦いが常に付きまとっています。
救急車で搬送される被害者 (c)ISRANET
このように、虐げられる弱い存在のようではあっても、彼らは暗闇に光る希望の光です。内外に不安要素を抱えるイスラエルにとって、また、イスラエルという憎しみの対象を抱えるパレスチナ人にとって、アラブ人クリスチャンの存在は大きな霊的意味をもっています。
今回、エルサレムの教会で働く、あるイスラム教徒のパレスチナ人男性と話す機会がありました。彼は、毎日ベツレヘムから密かに防護壁の下に掘ったトンネルで、ベタニアを通ってエルサレムに通勤していると言います。エルサレムで働き、日々の糧を得ていますが、イスラエルに対する憎しみを隠そうとはしませんでした。諸悪の根源はイスラエルにあると、懇々とその恨みと憎しみを語るのです。「家族がいるから自爆はできないが、イスラエルと戦う精神だけは決して失わない!」と、彼は話を締めくくりました。何かをきっかけに彼のスイッチが入り、20歳の青年と同じようなテロを犯しても決して不思議ではないと思いました。
この深い暗闇をどうしたら変えることができるのでしょうか。これまでさまざまな政治的取り組みが行われてきましたが、何一つ最終的な解決をもたらしませんでした。イエス・キリスト以外に解決はない……そう実感する中で、彼らの心に届くことができるのは、同胞であるアラブ人クリスチャンなのだということを痛感しました。
また、イスラエルにとって、アラブ人クリスチャンの存在は特殊です。周辺諸国から憎悪を向けられる中、アラブ人クリスチャンは聖書に基づいてイスラエルの祝福のために、また救いのために祈っています。そんな彼らの信仰がイスラエル人に妬みを起こさせ、救いに至るケースが後を絶ちません。現実にハイファでは牧師がアラブ人、信徒がイスラエル人というコングリゲーションが産声を上げています。
支援継続のために
BFPではイスラエルを覚えて祈るとき、同時にアラブ諸国のために祈ることを忘れたことはありません。私たちはユダヤ人に召された団体ですが、アラブ人クリスチャン支援を行っているのはそのためです。しかしここ数年、この支援が縮小の一途をたどっています。孤児院、盲人の施設、老人福祉施設など最大12のクリスチャン施設を支援してきましたが、献金の減少により今ではわずか4施設に支援するのがやっとのことです。また、ベツレヘムへの物資輸送などには危険が伴い、どのように物資を輸送するかも大きな課題となっています。
アラブ人クリスチャンは、イスラエルにとっても私たちクリスチャンにとっても愛する兄弟です。彼らが貧しさの中で痛み苦しんでいる今、私たちは彼らの必要を覚えたいと思います。もう一度他の施設への支援を復活させることができるように、どうぞお祈りください。また、知恵が与えられてさまざまな課題が解決するようにお祈りください。イスラエル、そしてパレスチナの人々が救いを受けるために、彼らが大きく光り輝くことができるよう、共にとりなしをお願いいたします!